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それは、短針の如く…


 「三人目の姉妹」の初期プロット的なものをHDDから発掘したので、それに手を加えて、お話として読める形にしたものです。「三人目の姉妹」に比べてあっさりすっきり。「三人目の姉妹」はコンセプトで最も大きなものが「フラマリ」と「魔理沙の吸血鬼化」だったので、自分の中ではそれらを割とストレートに出せてる感じ。主題をずばっと書き上げて、書きたいものを形にするのが、僕は苦手なようで……。そう言う意味では、未だにこの作品を超えてる作品を、僕は書いていません。
 魔理沙が吸血鬼へと変わっていく過程を、心理と身体の変化を併せてねっとり書けばよかったなーというのが反省点。自分が何か、異質なものへと変わっていくその過程、心理は如何なものか? 変身願望を満たす喜悦か、自分が自分でなくなってしまうような予感からくる恐怖か。……なんてな感じのものをやりたかった。難しい上に、大幅加筆の必要があるし、それをやると作品としての形態がおかしくなりそうだったのでやめましたけど。この辺の部分は今後、僕が何か小説を書く時に、リベンジしたいと思います。
 そう言えば、この作品から創想話への投稿が、新作のものになっていったんですね……。怖いもの知らずだったな自分。これが若さか(多分違う)。






幻想郷を照らす、眩い太陽の光。

生きるものおおよそすべてに活力を与える、暖かい光。

……この場所は、そんな陽の光とは未来永劫に無縁の場所だった。

深い深い地の底にある、暗い昏い闇の世界。

人間の住む場所ではない。

けれど、今日も私はここにいる。

自分の意思でここに来ている。

暗く長い、見事な造りだがかえってそれがこの空間を一層暗く見せる、そんな廊下。

底冷えしそうなほどの不気味な世界を通った先が私の目的地。

目の前に、幾重にも厳重な封印がなされている巨大な扉。

重さはきっと計り知れない。

強度はたぶん……思い切りぶん殴ってみても何とも無いだろう。

無論、殴るのは私ではなく、知り合いの鬼だ。

私の力では、殴ったこちらの方の腕がどうにかなりそうだ。

私はその扉を軽く叩く。

ノックという奴だ。

そして扉の向こうに居る彼女に声をかけるのだ。


「よう、フラン。遊びに来てやったぜ」



「何よ、また来たの」

開口一番、不健康そうな顔に愛らしいんだか不機嫌そうなんだか良く解らない表情を浮かべた少女が、毎度お決まりの台詞を私に投げかける。

いつもと違う点を挙げるとすれば、それはここが彼女の城である図書館ではなく、暗く深い地下の一室であることだ。

……どちらにしろ暗くて陰気な場所だが。

彼女……パチュリー・ノーレッジが私にお決まりの台詞を投げかけると同時に、私の頭上に気配が生じる。

「やっほー!まぁりぃさぁ~!!!」

声の主は私に挨拶しながら落下してきた。

彼女はそのまま落ちてきて、ちょうど私が肩車をするような形になる。

が、落下の衝撃は無く、羽毛が舞い降りたかのような感触の後で彼女の重みが両肩に優しくかかってくる。

「わーい!魔理沙、魔理沙―」

彼女は私の肩から、まるで猫のような動きでするりと床に降り立つと、今度は頭から私の胸に飛び込んで来た。

私はそんな彼女を優しく抱きとめると、その頭を撫でながらようやく挨拶をする。

「今日も元気が有り余ってるな、フラン。こんにちは、だぜ」

彼女……フランドール・スカーレットは、まるで私を姉のように慕ってくる。

いつかの霧の事件以来、私はすっかり彼女のお気に入りになったようだ。

……友達も、話し相手すらまともにいなかった彼女にとって、私は初めての友人ということになるらしい。

「ねーねー!今日は何して遊ぶ?」

「そうだな……パチュリーもいるしな」

どう言う訳か、最近フランの部屋へ出入りするようになったパチュリーと、三人で遊ぶのがフランの楽しみらしい。

パチュリーの方を見ると、そこには彼女以外にもう四人いた。

いつの間に入ってきたのか……流石は妖怪だといったところか?

「私も混ぜてはくれないのかしら?魔理沙」

「なんだ…レミリアも私と遊びたいのか」

「ええ、そうよ。可愛い妹とそのお友達と一緒に遊びたいの」

本気でそう思っているのか解らない、いや解らせない表情でレミリアが笑う。

「……で?そっちの三人は」

「私はお嬢様の傍を離れることは出来ませんから」

短くあっさり答える咲夜。

「私もパチュリー様に……」

おどおどしながら答えるパチュリー付きの小悪魔。

「……?っ?…?」

……何で門番まで来てるんだ?

「魔理沙、魔理沙!今日は箒の使い方を教えてー」

「おおっと…」

フランが翼をぱたぱたさせて腰に抱きついてくる。

「いい加減まとわりつくのやめろよなー…恥ずかしいぜ」

……嘘だ。

本音を言えば結構嬉しかったりする。

妹が出来たみたいで凄く嬉しいのだ。

「ぶー。いいじゃないー。魔理沙にくっつきたいの!!」

「おいコラ、よせって。髪を引っ張るな」

「面白そう!私にもやらせろっ」

「お、お嬢様!?」

「うわわっ!?レ、レミリアっ……」

何を思ったかレミリアまでじゃれついてくる。

「お、おい!ちょ……あはっあははっ…くすぐったい!!た、助けろパチュリー」

「………いいな」

「な、何か言ったか!?ひゃははは…や、脇は弱いんだよー!や、やめろってうはははは」

パチュリーの奴は頼りになりそうに無い。

というか、「何とかする相手」が自分達の主である咲夜、美鈴、小悪魔じゃどうにもならないし。

「だぁーっ!!やめい!離れろダニめ」

「やーん」

「遠慮するなって」

「してないっ!!!」



その日は雨だった。

海でもひっくり返したかのような、それは酷い土砂降り。

ここまで来るのに帽子の先から爪先までびしょ濡れになってしまった。

普通ならこんな天気じゃ表には出ない。

空を飛ぶなんて馬鹿げてる。

けど、それでも。

今日も私は紅魔館へとやって来る。

「あ、魔理沙さん。いらっしゃいませー」

「こんな日なのに、ご苦労様だぜ」

「職、変えた方がいいですかねぇ……」

「天職な気もするけどな」

この雨の中でもめげずに頑張る美鈴と短い話をした後、私はいつもの様に地下の、フランの待つ部屋へと降りて行く。

部屋に着いたら暖炉を借りるか。


「魔理沙―!!」

「フラン……」

扉を開けると同時にフランが飛び出してくる。

もうパターンは覚えたので、それを軽いステップでかわす。

「あれれ?」

「はっはっは、甘いぜ」

今の私に触れさせるわけにも行かないし、な。

「また来たの」

「来たぜ」

奥からパチュリーが出てくる。

「外が雨でなー。ずぶ濡れなんだ、服を乾かしたいんだが……」

「じゃあ脱いだら?」

パチュリーはそう言うと、指先から小さな火を生み出した。

「ちゃちゃっと乾かしてあげる。全部脱いで」

「ぜ、全部か?」

「女同士でしょ、問題無いわ」

「じゃあ私も脱ぐね!」

「いや、その理屈はおかしいと思うぜフラン」


服は割と短時間で完全に乾いた。

私自身も、冷えた身体を炎の精霊の力でよく暖めてもらったので、風邪を引く心配は無いだろう。

下着まで完全に脱がされたのは忘れよう……恥ずかしい。

部屋を見渡すと、木製の大きなテーブルの上に、何やらたくさんの本が散乱している。

「勉強か?フラン」

「そーだよー。パチェに教えてもらってたの」

「へぇ……何を勉強してたんだ」

「人とそれ以外の違い。妖怪の種類。魔法の基礎」

フランの代わりにパチュリーが答える。

「吸血鬼についてとかもねー」

フランが私にまとわりつきながら嬉しそうに言う。

「そうかそうか。勉強とは偉いぜフラン」

頭を撫でてやると、フランは気持ち良さそうに目を細めてにこにこ笑う。

思わずこちらも微笑んでしまうくらいに、その笑顔は可愛らしかった。

これが本当に狂気の紅い悪魔だとは信じられまい。

……確かにフランはどこかおかしい。

けど、それは少しずつだが治していける筈だと思う。

私はそれをしてあげたいと思っている……恥ずかしいから誰にも言わないが。

フランが自分の妹に思えてきて仕方が無いとは尚更言えない。

彼女は私より遥かに年上だし、この感覚を誰かに話そうものならたちまち私は笑いものだ。

そんなのは御免だ。


出会った時のフランを思い出す。

495年もの間、孤独のうちに過ごしてきた彼女は歪に壊れていた。

けれど、今の彼女はそれが少しづつ癒えて来ていると思う。

自惚れかもしれないが、私がフランの、今までの孤独を埋められているのかと思うと嬉しい。

出来ることならば、ずっと彼女の傍に居てやりたかった。

寂しさ、孤独の辛さは、人も妖怪も関係無いのだろう。

孤独が孤独と理解出来ていなかった彼女は、不幸だったのか、幸運だったのか。

それは私には解らない事だったが……。

彼女を一人に、二度と孤独を味合わせる事だけは、絶対にしたくなかった。


「他にも料理やら物理やら帝王学やら……」

パチュリーが何やらブツブツ言ってるが気にしないことにしておこう……。

「やっほー魔理沙。まあゆっくりしていきなさいよ」

レミリアが音も無くやってきた。

背中越しに抱きついてくる。

「よせよ……」

「照れない照れない」

「照れてない!!」

「あ、お姉さま、ずるい!」

「ふっふっふ。魔理沙、今日は私に付き合いなさいよ」

「駄目!魔理沙は私の!!」

「私はモノじゃない!!」

雨でも何でも、いつもと変わらないな、ここは。



今日も私は紅魔館にやって来る。

無論、フランに会う為だ。

いつもの様に地下へと降り、私は彼女の部屋へと入る。

「魔理沙ぁ」

甘えた声で、フランが抱きついてくる。

私は彼女をそっと抱きとめると、いつものように頭を撫でて名前を呼んでやる。

「会いたかったよー…」

「おいおい、昨日からせいぜい10時間程度だぜ」

「10時間も、だよ」

潤んだ甘ったるい声で、背伸びしてフランが私に顔を近づけてくる。

スッと瞼を閉じて、頬を赤らめ、何かを期待するような表情で。

「……フラン」

私はそんな彼女の期待を叶えてやることにする。

フランの顔へ、私も自分の顔をゆっくりと近づけて行く。

互いに息遣いが肌で感じられる距離。

私は尚も接近を試みる。

そして。

「んっ……」

「…ふぅぅん……っ」

私とフランの唇が触れ合う。

柔らかなフランの唇。

私はそれを奪い、満足するまで堪能する。

二人の身体がピクンと震えた。

……歓喜と、恍惚。

湧きあがり、燃え上がる感情を暴発させないようにして、私はフランの腰に手を回す。

密着させるように抱き合い、行為を続行する。

「んちゅ……はぁぁ……んん……」

「ふぅ……んあっ……」

お互いの鼓動を感じあう……。

二人の心臓は、バクバクと速く激しく動き、今にも爆発しそうだった。

舌を彼女の口内に侵入させる。

フランの舌を絡めとり、吸い、彼女の口内を私は舌で蹂躙して行く。

フランも負けじと私の舌を吸い、絡め、激しく求めてきた。

ぴちゃぴちゃと音を立て、口内をひたすらに舐め回す。

互いの唾液を交換し合い、かき混ぜ、ぐちゃぐちゃに溶け合い、音を立てて嚥下する。

どこまでも甘美で、蕩ける様な味覚。

「んあ……ま、りさぁ……」

「フランっ……」

互いの名を呼び合い、尚も私達は唇を奪い合い、舌を絡め、唾液を交換する。

どこまでも甘く、濃厚なディープキス。

……どれくらいそうしていたのだろうか。

どちらからともなく、私達は密着させていた互いの身体をゆっくりと、だが確実に、そして名残惜しげに離す。

二人の間には、混ざり合った唾液の糸が橋を成して、妖しく艶めかしく光っている。


私達は何時の間にか恋に落ちていた。

最初は軽い気持ちで遊びに行っていた。

それが回を重ねるごとに楽しくなり、私達は親友になった。

まるで、自分に妹が出来たかのような、そんな感覚。

親友で、妹で。

彼女も私を姉のように慕ってくれた。

暇さえあれば、私は必ず彼女に会いに行った。

遊んで、時に勉強して、喧嘩もした。

…………そして、何時の間にか、私達はお互いを愛してしまっていた。

理由は解らない。

ただ、フランが愛しかった。

無邪気に懐いてくる彼女が愛しくなっていたのかも知れない。

まぁ…今となっては理由などどうでもいい。

とにかく、好きになっていた。

気が付けば彼女の事ばかり考えていて、一日会わなかっただけで不安や苛立ちが襲ってきた。

それが日に日に増して行き、半日会えないだけで、少しの間が空くだけで居ても立ってもいられなくなった。

ある日、私は彼女をベッドへ押し倒した。

衝動的な行為。

確か、家族の話だったか……感情とか、心の問題についてフランに教えてやっていたんだと思う。

好きとか、愛情とか、そんな類の話。

会話の流れで私は、フランに「私をどう思う?」と聞いた。

その時フランは私に「大好きだよ」と言ってくれた。

短い逡巡。

それはこのことを彼女なりの真剣さで考えてくれた証。

そして。

屈託の無い笑顔で、彼女は。

「大好き」と。

その言葉が耳に飛び込んできた瞬間、私はフランを押し倒してしまっていた。

押し倒してから我に返り、私は慌てて身体を離そうとしたが、フランが私を離さなかった。

そこからはもう、止まらなかった。

私達は心のままに、想いのままに互いを貪り合い、愛し合った。

大好き。

愛してる。

何でも良かった。

私達は愛し合っているんだ。


唇を離した後、フランが私をじっと見つめてくる。

何か物欲しげな……そんな視線で。

「ああ……いいぜ……」

私は「それ」をすることを了承し、大きなベッドの上に腰掛ける。


すぐさまフランが私の背後に回りこみ、肩から手を伸ばして私を背中から抱くようにしてきた。

既に数十回は軽く超えている、その行為。

「魔理沙……ん」

甘く暖かな吐息がうなじをくすぐる。

「いいぜ……」

…もう一度、彼女に「それ」の許可を出す。

「……」

無言の肯定。

フランの吐息を肌で感じる。

それがだんだんと近くなり……。

柔らかな唇が、私の肌に触れる。

「はぁ……」

思わず息をつく。

妙に上擦った声が出かかって、それが私の気分を官能的に支配する。

そして。

「―っぁ……」

硬質の、吸血鬼の牙が私の肌に触れる。

ぞくり。

全身の毛が逆立つ。

訪れる感覚に備え、小さな怯えと、それを待ち望む心が私を震わせる……。

「ふぁぁ……っ」

牙が、ゆっくりと押し当てられていく。

優しく、優しく肌に食い込んで行き……。

……ずぶり。
「んはっ……」

牙が、肌を破った……。

「んんっ……はああ……」

ずぶずぶと、牙は私の肌を、肉を貫いていく。

小さな、鋭い痛みと。

……心地好い、この感覚。

恍惚感と言っていい。

痛みの筈のその感覚は、快感となって私の身体を駆け巡る。

顔が上気しているのが解る。

今の私はきっと、だらしなくゆるんだ表情でうっとりしているに違いない……。

牙の侵入が止まる。

そして……。

「あんッ…!」

ちゅるちゅる。

私の中を流れる血が、吸い上げられていく。

僅かな、本当に僅かな量の血液が、吸われて行く。

ちゅるちゅる、ちゅるちゅる……。

「うっ……くは……」

心臓は爆発しそうになるほど早鐘を打ち、全身は細かく激しく震える。

吸われてる……吸われてるよ、私……。

そう考えただけで。

私は…………………。



「魔理沙……」

行為を終え、身体を離して隣に腰掛けるフランが、心配そうな表情で私を見る。

「ん……大丈夫。まだクラクラするがな……。貧血ってほどじゃあないぜ。ちょっと休めば平気さ」

実際、そう大したことは無い筈だ。

吸われた血の量は極僅か。

これぐらいで貧血状態にはならないだろう。

「でも魔理沙……いつもコレの後フラフラしてるよ?」

「いや…まあその、何だ……」

…………流石に言えるわけ無いぜ。

何度味わっても、この感覚はたまらない……。

麻薬のような中毒性だ。

痛みの筈が快感となる……吸血鬼による吸血は、本当に中毒性があるのかも知れない。

今度調べてみるかな……。

「ん……血が出てるよ」

「そりゃ吸われればな……」

「もったいない……」

「お……」

フランがそっと身体を寄せてくる。

そして……。

「ん…ぴちゅ…」

「ひゃ…」

フランが、私の首筋に舌を這わせて来た。

吸血の痕から滲み出てくる私の血を、フランは丁寧に舐めとっていく。

「ん……おいし……」

口の周りをぺろりと舐め、満足そうにフランが微笑んでくる。

出血は少ないようだったので、行為はすぐに終わった。

が、その短い間で私の理性は欠片も残こさずどこかへ吹っ飛んでしまっていた……。

私は無言で彼女をベッドへ押し倒す。

「きゃっ……!ま、魔理沙……」

もうどうでもいい、こいつが、フランが欲しい。

「ずっと…ずっと、一緒だよね?魔理沙ぁ」

私は答える代わりにフランの唇を奪った。

ああ、居てやるとも。

ずっと、ずっと一緒に居たい。

私はその小さな身体を貪欲に求めることに没頭し、沈んでいった……。



「ねえフラン」

「なぁに?お姉さま」

「魔理沙の血、美味しかった?」

「うん!あのね、とぉっても甘くて、美味しいの」

「そうなんだ……ちゃんと吸血痕は消した?」

「うん、パチュリーに教わった通りにバッチリ」

「そう……ねえフラン」

「なぁに、お姉さま?」

「私も練習したの」

「うん」



「だから…今度、私にも吸わせて頂戴」






「いいよ」





……今日も地下から、この館の住人ではない少女の嬌声が静かに風に運ばれて耳に入ってくる。

館の構造上から、最深部からの音源であっても反射するなどして地上部分にまで聞こえてくる場合がある。

と言ってもほとんど小さな音であるが……。

職業に徹しているうちに、私は耳が良く聞こえるようになった。

地獄耳とからかう者もいるが、それは密かに自慢でもある。

悪魔の従者たる者、「地獄」耳とは相応しい称号と思うのは妙だろうか?

「咲夜さん……」

今日の仕事も一段落し、ささやかな休憩の時間。

同じく休憩に入った美鈴と、従者達が利用するカフェで談笑していた時だった。

「あれから、何回目でしょうか」

「さぁ……もう、百は超えてるんじゃないかしら」

「お嬢様も加わっているんですよね」

「お嬢様も魔理沙が好きだったなんて……色々と驚愕よ」

「意外ですよね」

くすくすと美鈴が笑う。

確かに意外。

されど主が望みを叶える為に尽くすのが従者たる私の務め。

意外だろうと何だろうと職務を全うするのみだ。

「……美鈴。次の満月まで後何日?」

「……残り一週間です」

「解ったわ。となると……」

「パチュリー様のお話では、そろそろ始まる頃だと」

……いよいよ、か。

これから忙しくなりそうだ。


……ぞくぞくする。



目を覚ますと、既に夜になっていた。

「……けほっ」

喉が酷く渇く。

最近、寝て起きると喉の渇きが酷い。

「水…水…」

広大な、灼熱の砂漠のど真ん中に投げ出された遭難者のように、私は水を求めた。

ベッドの脇のテーブルに用意してあった水差しを掴むと、コップに注がずにラッパ飲みにする。

ごくん、と喉を何度も鳴らし、すべて飲み干すまで口を離さない。

味わう余裕等無い。

水差しは満タンだったが、あっという間に空になった。

「まだ……」

まだ足りない。

私は飲み水を求めて台所へ走った。



「魔理沙ぁっ……こっちこっち!」

「今度は負けないわ、もう一度勝負しなさい」

フランとレミリアの二人と、今夜も遊ぶ。

レミリアが私に吸血を求めてきたその日から、三人で遊ぶことが多くなった。

「たまには吸っておかないと」と言っていたが、口実をつけて遊びたいだけなんじゃないかと思った。

照れ隠しに目を吊り上げていたのが可愛かったっけ。

私としては拒む理由は無かった。

……ここだけの話、二人から同時に吸血されるのがクセになってきている。

弄ばれている様な気がして少々癪だが、あの感覚には抗えない。

加えて、レミリアと過ごす時間も楽しく、特に文句は無い。

フランもレミリアも、最近では妹に思えてきて仕方が無かった。

普段のレミリアにそんな感情は抱かないが、甘えられてくると途端に妹に感じてくるから不思議だ。



目を覚ますと今日も夜。

喉の渇きは相変わらず酷い。

……いや、心なしか酷さが増してきているか。

水をガバガバと飲み干す、最近。

お腹を壊しやしないかと危惧するが、そんな気配は無い。

顔を洗って、寝癖を直そうと鏡を覗く。

「ありゃ……?」

鏡の中にはいつもの私。

ただ一点を除いて。

「寝不足だったからか?目が変だぜ」

目が充血して真っ赤だった。

黒目も赤かったので、寝不足が酷いのかも知れないな。

最近、生活リズムが変だからかも知れない。

明日と明後日は紅魔館全体で何か用事があるらしいので遊びにいけない。

今夜は遊んだ後、次の夜まで頑張って起きて生活習慣を強引に修正しよう。

そうしよう。



「パチェ、本当に上手く行くの?」

「ええ……効果は確実。もう、逃げられない」

「逃げないよ、絶対」

「そうだよ。逃げる訳が無い」

「……そうね。でも、優しくしてあげなきゃ駄目よ?」

「……早く満月になぁれ」



厚めのカーテン越しに、太陽の光が部屋に入ってくる。

夜が明けたか。

そう認識した瞬間、急に眠気が襲ってきた。

「ぬ……!?こりゃ…」

瞼が重い。

大きな欠伸が何度も口から出て、とにかく眠かった。

これでは、まずい。

「ふぁ…っても、どうする……ふぁぁあ~あ…眠……」

おまけに喉も渇く。

冷たい水を何度も飲み、顔も洗う。

が、それでもまだ眠い……。

「部屋が暗いのが悪いんだ……」

そう思って、私はカーテンを開けようと窓へ近付く。

……と。

――――――――――やめろ。

――――――――――開けては駄目だ。

「な……」

思ったのではない。

考えていない。

体の奥底から、本能に訴えかけられた、そんな感覚。

本能、と言うのか。

内なる私が、警告してくる。

いや、警告というよりは……。

――――――――――開けるな。

――――――――――後悔するぞ。

「黙れ」

――――――――――やめておけ。

「やかましい!」

半ば逆上気味に私は窓へと踏み出した。

これ以上、こんなわけの解らないことでイライラするのは御免だ。

「誰かの悪戯だとしたら、ただじゃおかないぜ」

吐き捨てるように言うと、私はカーテンに手をかける。

瞬間……。

「っあ!」

私は反射的に飛び上がってカーテンから手を離す。

………ば、馬鹿な!?

熱かった。

カーテンが、焼けるように熱かったのだ!

「う、嘘だろ……?何だって、そんな」

私は恐る恐る、カーテンに触れた掌を見た。


…………焼け爛れていた。

正確にはちょっとした火傷、程度の具合だったが、初見のインパクトは重度の火傷だった。

「な、なんで……」

原因は……なんだ?

魔法の罠か?

そうだとしたら、確かめなくちゃならない。

「恨まれる覚えは無いんだがな」

積み上げられた道具の山から、熱い鍋を持つ時に使う手袋を引っ張り出す。

魔法で強化した耐熱手袋だ。

ちょっとやそっとの熱は通さない。

私は手袋をはめ、恐る恐るカーテンに手をかける。

――――――――――――よせ。

また、あの声。

別の私が囁く警告を、私は無視してカーテンを勢い良く開け放った…………。



漆黒の夜空を、私は湖へ向かって全速で飛行していた。

全身包帯で、まるで木乃伊だが、この際格好は気にしてられない。

思えば異変はもっと前からあった。

喉の渇き、瞳の変色、日光……。

だいぶ前から喉の渇きは酷くなる一方だった。

水をいくら飲んでも渇きは癒えず。

昼間に活動することが知らず知らずのうちに減っていき。

これではまるで……!!

「くそっ!本当に……どうなってやがるんだ……!!!」

背後には美しい満月。

私の心を支配しているのは、怒りと、恐怖。

「私の身体は…どうなっちゃったのよぉ……」

箒を持つ手が震える。

自分の身体が、何か得体の知れないものへと変質したかも知れない恐怖。

想像出来るだろうか?

気が付いたらまったくの別物になってしまった自分の身体を。

変わってなければいい。

そう願った。

が、それを願う度に不安と恐怖が私に重く圧し掛かって来る。

嫌な予感ほどよく当たる。

怖い怖い怖い。

「うぁあああああぁッ!!」

私はすがる気持ちで紅魔館へと向かった。



紅魔館につくと、そこにはいつも通りに、美鈴が居た。

「魔理沙さん?…え、お嬢様達ですか?」

「そ、そうだ…もう、用事とやらは、終わったのか?」

声音が震える。

なんてことだ……。

「…。はい。今は…きっと妹様の部屋だと思いますよ。そこにお嬢様もパチュリー様もいらっしゃると思います」

「解った!」

美鈴に礼を言って、私は紅魔館の地下へ向けて箒を飛ばした。

一刻も早く、この状況から脱したかった……!!


扉の前で箒に急停止をかけると、私は飛び降りながら声を張り上げて叫んだ。

「フラン!!レミリア!!た、助けてっ……!!!」

二人なら何とかしてくれると思った。

私は彼女達に頼ることが最良だとしか考えられなかった。

「開けて!開けてよぉッ!!」

時間が非常に遅く感じられる。

私は叫び、扉を叩いた。

「開けて…開けてぇ……うぐ…」

涙が零れ落ちる。

だらしなく、ぺたんと腰を下ろしてしまう。

立てそうに無い。

私は泣いて二人の名前を呼んだ。

やがて。

時間にして30秒も掛からなかった筈だが、私には永遠とも思える長い時間の末に、その扉が開かれた……。

「あ、ああ……」

私には、扉の隙間から漏れる内側の光が、何よりも暖かく頼もしく感じられる。

「いらっしゃい、魔理沙。待ってたんだよ」

「中へおいで魔理沙」

二人が、私を抱き起こして、部屋の中へと連れて行ってくれた……。


「どうしたのさ?そんなに慌てて……怯えてさ」

私をフランのベッドへ寝かせてから、レミリアは腕を組んで私に問いかけてきた。

フランは、部屋に備え付けの簡易キッチンでお湯を沸かしている。

……二人の顔を見ているうちに、段々と落ち着いてきた。

と言っても、いまだ状況は解らず、私を支配しているのは依然、恐怖だった。

「わ、私…私……」

上手く言葉が出てこない。

「魔理沙、はい、紅茶だよ」

「え…?あ、ああ…ありがとう、フラン……」

「はい、どうぞー。お姉さまも飲む?」

「いただくわ」

起き上がってベッドに腰掛け、紅茶を受け取る。

受け取った紅茶は熱い湯気を立てて、美味そうな香りが私の鼻をくすぐった。

一口啜ると、熱い液体が喉を通り、私の全身がカッと熱くなる。

私ははじめて、自分の身体が冷え切っていたことに気がついた。

熱い紅茶が私の身体を芯から温めてくれる。

心なしか活力も湧いてきた気がする。

「美味いな……」

素直に感想を口にする。

今まで味わったことのない、筆舌に尽くし難い美味さだった。

「ありがとう、フラン…美味いよ」

「えへへー…」

フランに礼を言ってから、また啜る。

一口、二口と啜る度に、身体に力が湧いてくるのが感じられた。

渇きが癒えていく。

それからすぐに、私はあっという間にカップの中身を飲み干してしまった。

「まだ、飲む?」

フランが嬉しそうに微笑んでくる。

「あ、ああ……そうだな」

気恥ずかしいのだが……私はおかわりをしたいという欲求に勝てなかった。

カップを差し出し、二杯目を注いでもらう……。

「それ、そんなに気に入った?」

レミリアがベッドの脇まで引っ張ってきた椅子に座って、私に聞いてきた。

「ああ…いいな、これ。何て葉だ?」

自分でも淹れてみたい。

こんなに美味しいお茶、放っておく手は無いだろう。

「教えてくれよ」

もしかしたら高級品かもしれない。

それなら、図書館で調べて自分で栽培するのもいいかも知れない。

それだけ美味しいのだ、この葉は。

「いいよ。それの名はね」

レミリアが悪戯っぽい笑みを浮かべ、私に言った。

「デモン・ブラッド(魔王の血)」

「へ?」

聞いたことすらない名前だ。

「初耳だな……」

「ああ、聞いたこと無いのも無理は無いね」

「?紅魔館オリジナルの葉なのか?」

魔法で栽培してるのかも知れない。

それにしても仰々しい名前だ。

魔王の血……確かに、血の色みたいに真っ赤だが……。

ん?

血?

「オリジナル、だね。他じゃ手に入らないよ」

自慢げに言うレミリア。

「それは独自の方法で栽培した葉にちょっと手を加えて作る、うちの特製なんだ」

「へぇ……」

「魔理沙、気に入ったの?」

フランがにこにこしながら聞いてくる。

「ああ」

私は彼女に微笑み返して答えた。

「貴女、中々センスあるわねー」

レミリアが嬉しそうに言う。

まるで、何かを見つけたような嬉々とした表情で。

「そう、よかった。そのお茶ね」

「うん?」

「人間には飲めないのよ」

「……え?」

……………今、何て?

「独自の栽培法って言ったよね。この辺にしか生えない特別な葉に、あるものを与えて育てるの」

「あ、あるもの?」

尋ね返しているが、私は何が何だか解らなくなっている。

人間には……飲めない?

じゃあ、私は?

まさか……!?

「毒じゃないって」

見透かしたようにレミリアが言った。

「厳密には飲めない、じゃなくて飲めたものじゃないのよ。その味は……私達にしか解らない」

「ど…」

どう言う事だ、それ?

「その特別な葉に与えるもの。何だと思う」

「何って……解る筈、無いだろ…」

「教えてあげようか?」

笑顔でフランが覗き込んできた。

「な、なんだ?」

「「……人間の血」」

姉妹の声が重なる。

重なって、一つの言葉を私に伝える。

何て言った?

この二人は、今。

何て言った。

「血…だって?」

「そう、血。水と一緒に適度な血液を与えて育て上げ、出来た葉を紅茶と同じように加工。飲む時にミルク代わりに絞りたての血を1~2滴垂らせばデモン・ブラッドは完成」

「今回は咲夜の血を貰ったのー」

「――――――――っ!?」

な、何?

血?

人間の、血?

私は何を飲んだ?

血。

どう感じた?

美味い。

「え?あ、……私……?アレ?」

聞き間違えたかな?

それとも勘違い?

冗談?

「お、おいおい……冗談無しだぜ…?私をビビらせようったって……」

「冗談?そんなの言うわけ無いじゃない」

レミリアが立ち上がって、私を見下ろした。

「認めなよ、魔理沙。貴女が美味い美味いと言って飲んだ紅茶は」

「う…ああ……?」

「血なんだよ」

世界が、凍り付く。

何かが砕ける音。

私が、落としたカップの砕け散る音。

血。

血血血。

人間の、血。

「ゲェェェェェェェッ!!!?」

強烈な吐き気。

視界が涙で霞む。

血を飲んだ!!

私は、人間の…血をっ………!!!

「うぁああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

私は頭を抱えて絶叫した。

だが、いくら叫んでも、泣いても。

吐き気がするのに……私は嘔吐出来なかった。

身体が……不快に感じて、いない。

「ねぇ、魔理沙」

レミリアが語りかけてきた。

その声音は落ち着いていて、そして優しかった。

「どうして、貴女がこのお茶を美味しく飲めたか解る?」

………?

解る訳……無いだろ。

「包帯、取ってみなよ」

包帯?

ああ、そう言えば私は全身包帯で……。

………そうだ、私は、身体が変になってて、それでここに来て……!!

私は言われるままに、まずは右腕の包帯を解いた。

そして…………。

「馬鹿な……」

火傷が、無い。

跡形も無く完治している。

「そんな…なんで……」

「教えて欲しい?」

呆気にとられている私を楽しそうに眺めながらレミリアが言う。

「今夜は満月な上に、貴女は生き血をを摂取した。だから治ったのよ。吸血鬼なら当然ね」

「は?」

吸血鬼?

誰が。

「おいおい…私は」

「吸血鬼」

「なん……だと?」

私が……吸血鬼?

「喉の渇き。瞳の変色。昼間起きれない。そして、日光による火傷」

「っな……」

何で知ってる!?

「何で知ってるか?当然じゃない」

レミリアの指が、私の頬をなぞる。

「フランと、私。二人で貴女を吸血鬼にしたからよ」

「………え?」

今、何て言った。

理解が追いつかない。

否。

理解することを私が拒んでいる。

私が、何だって?

「魔理沙、約束してくれたよね」

フランが、私にしなだれかかってきた。

微動だに出来ない。

私は瞳を見開き、けれど何も見えていない。

ただ、呆然とそこにいるだけの、空っぽだ。

「約…束?」

「ずっと一緒に居てくれるって。いつまでもずっと一緒」

一緒、フランと、一緒。

「ああ……約束…した」

ずっと一緒に居たい、そう思った。

「私、魔理沙と一緒に居たいの。お姉さまも魔理沙と一緒に居たいって。でも、魔理沙は人間でしょ?だからね…」

「私達と一緒になればいい。貴女が、同じ吸血鬼になればいつまでもずっと一緒に居られる」

レミリアが私の顔に巻かれた包帯を解いていく。

「私は……いつから……」

「貴女から少しずつ吸血していきながら。私達姉妹の血と魔力を徐々に貴女へ注いでいったの。私達の力は特別強くて、急激な変化は人間には耐えられないから」

「吸い過ぎないように気を付けたんだよ。魔理沙が変わるまで、今までずぅっとね」

吸血。

あの行為が。

快感に溺れ、恍惚とさせられていたあの時に。

「時計の秒針が時を刻む。遅々とした、けれど確実に進むコト。じっくりじっくり、今夜の為に」

「準備は万端。後は、満月の今夜……最後の仕上げをするだけ……魔理沙、ずっと、一緒に居られるんだよ」

「うあ……ああ……」

ずっと一緒。

その響きは天上の音楽よりも甘美だ。

天上なんか知らんが。

だが……吸血鬼への変貌。

人ではない別のものへと自分が作り変えられる違和感、恐怖。

私は……どうすればいい。

「あら、来てたのね」

至って普通の様子でパチュリーがやって来た。

足音一つ立てず……いつも魔法で飛んで移動しているのだから別に不思議でも無いか……。

「パチェ、いらっしゃい。これから魔理沙から吸おうと思ってるんだけど」

「そう。まあやるならお早めに、ね。巫女辺りが感づかないとも限らないよ」

「パ、パチュリー……」

震える声で私はパチュリーを呼ぶ。

「どうしたの、魔理沙。震えちゃって。怖い?」

頷いていいものか。

けど、怖いのは確かだった。

何でもいい、すがりたい。

けど、本当に私は助けて欲しいのか。

何から?

何が何だか解らないのだ……。

「ふぅん。まあそうよね。慣れ親しんだ世界からの脱却は恐怖が付きまとうもの……」

……そう言うと彼女は、私の目の前までやって来た。

「貴女がどう思おうと、もう貴女は逃げられない」

パチュリーは冷たく、そして何かの感情を込めた声でそう言った。

「貴女は既に吸血鬼。もう戻れない。でもね……」

何も言えず、ろくな反応も返せない私の顎を、彼女が指でくいと持ち上げる。

「貴女がフラン様を愛した時点で…既に貴女は「こちら側」の住人になっているの」

その瞳は闇色。

「認識しなさい魔理沙。貴女はもう人間ではない。怖いかも知れないけど、私達がいるわ」

私の、何かにすがりたいという気持ちを……パチュリーはあっさり砕いた。

「魔理沙……一緒に、居よう?いつまでも、ずっと」

永遠なんて幻想だ。

けれど。

「これから貴女を完全な「家族」にしてあげる。居ようよ、ずっと。…好きだからさ」

一緒に居たいと、その思いは本物で。

「踏み出すかどうかは貴女次第。私達は待ってるわ。……決めるのは貴女の意思」

その為の努力はするし、何よりそうでありたい意思がある。

「私……は……」



そう、私は………………………。





おわり

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