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友達一人、できるかな


 僕の初霊アリ作品。当初は創想話の後書きに書いたように、「絶滅危惧種みたいだからちょっとやってみようかな」と、そんな軽い気持ちで書いたんですけど……。
 書いてるうちに、見事にこの二人に脳をやられちゃいました。
 自分の作品でハマるとか、自画自賛と自己陶酔な感じがして、アレな気ガしますが……。この作品が現在の僕を作った事は紛れも無い事実であり、初期プロットから完成まで、きっちりと書きたいテーマを書き上げられた事もあって、結構お気に入りの作品となっています。
 霊夢が周囲から特別視されているという点は、彼女を考える上で結構大事だと思います。いくら達観しているとは言え、彼女だって普通の女の子だと思いますし……。
 アリスはまだ、ベタベタの二次創作タイプ。今見返すと、個人的にイライラしてきます(笑)

 あと、永琳の薬に戦術神風があるのは、これを書いている時にハマッた覚悟のススメの影響。自分が好きなものをすぐにこういうところに持ち込むのは僕の悪い癖です。僕が知り得る限りでは、割と受け入れられているようですけど……。嫌いな方にはごめんなさい。





今日も今日とて、参拝客の一人も来やしない。

別に人が来る来ないに興味は無いが、少しは賽銭を入れて欲しい物だと思う。

境内の掃除もほぼ終わり、私は箒を片付けてお茶を淹れることにした。

今日は玄米茶にしよう、そう思った時だった。

「霊夢?こんにちは」

空の上から、澄んだ綺麗な声が聞こえてくる。

見知った少女の声だ。

「あら、アリス。こんにちは」

「今、空いてるかしら」

言いながら彼女は石畳の上に降り立った。

私はそんな彼女を尻目に自宅の縁側から家の中へと入って行く。

お茶を淹れる為だ。

「これからお茶。私は暇を貪るのに忙しいの」

魔法瓶(霖之助さん曰く「ポット」と言うらしい)からお湯を急須に注ぎ、茶菓子と湯飲みを用意する。

「私も一緒に貪ってもいいかしら?」

縁側からアリスが言ってきた。

最初からそのつもりでしょうに。

「勝手にどうぞ」

アリスの為に、湯飲みを用意してやる。

うちに良く遊びに来る連中用にそれぞれの湯飲みが置いてあるので、その中から彼女の物を選んで手に取り、お茶を淹れてやる。

最近、彼女はよく神社に現れる。

以前は私の方から彼女を訪ねるか、宴会の時ぐらいしか顔を合わせることも無かったのだが、どう言う心境の変化なのか。

私の知っている彼女は、常に人形を作り、家に引き篭もっている、陰気な雰囲気の少女だ。

(……ちょっと酷いわね、今の感想は)

とにかく、彼女は、アリスは最近、良く遊びに来る。

神社に頻繁に遊びに来るのは他にも魔理沙やレミリア(とそのオマケ)、萃香に、その他諸々の妖怪連中が多い。

単に、その中の一人に彼女が加わっただけのことだ。

……その筈なのだが。

(何か違うのよね、アリスは)

アリスの顔を見る度に、何故か嬉しくなってくる自分がいる。

こんな感情は初めてだった。

「はい、お茶」

「ありがとう、霊夢」

名前を呼ばれた。

ただそれだけのことなのに、私の胸がトクンと高鳴る。

意味の解らない嬉しさと、心地良さ。

彼女と居ると、心が暖かくなって、ずっと傍に居たくなる。

この気持ちの正体が何なのか、私には解らない。

他の誰にも抱かない感情。

ずっと昔から顔をつき合わせている魔理沙にも抱いたことの無い気持ち。

……貴女は何故、私に会いに来るようになったの?

聞いてみたいが、多分それはあまりいい結果を生まないと思う。

聞くことで、彼女が来なくなってしまうかも知れない。

そしてそれは、とても嫌なことだと心の奥の私が訴えていた。

「でね、魔理沙ったら酷いのよ?私の大事な人形を勝手に持ち出して、壊しちゃったんだから……」

「何でアンタ達はそんなに仲が悪いのかしらね」

「知らないわよ、アイツがいつも突っ掛かって来るのよ。私のこと嫌いだとか言ってるくせに、やたら絡んでくるの。何でかしら」

「私に聞かれても解らないわよ。あいつは捻くれ者だしね……何か用事があったんじゃない」

「あいつが私に?ないない」

互いの近況や世間話、アリスの人形の話…。

特に意味が無いようで、そうでも無い雑談。

ふと気が付けば何時間も話し込んでいたようだ。

いつの間にか日は傾き、夕焼けが綺麗だった。

「もうこんな時間か……」

楽しい時間は早く過ぎ去るとでも言うのだろうか。

「長居しちゃったわね…迷惑じゃない?」

「そんなことは無いわよ。どうせやることも無いし、お米はお昼にといでおいたし」

本当だ。

迷惑など感じない。

むしろ……。

「そっか。それじゃあ…お邪魔したわね、霊夢。また明日ね」

また明日。

……まただ。

また、胸が高鳴った。

また、明日も彼女と会える。

理由の解らない嬉しさが込み上げて来る。

「ええ、またね、アリス」

「おやすみ、霊夢」

夕焼け空の彼方へと去って行く彼女の姿が見えなくなるまで、私は手を振って見送り続けた。


やはり、おかしい。

何故、アリスに対してだけあんな気持ちになるのだろうか。

一日を終え、私は布団に潜り込んで彼女のことを思った。

そして、彼女と他の連中との違いを考えた。


気が付けば、自分はいつも一人だった。

里の人間から避けられている事は、小さい時分から感付いていた。

自分が博麗の巫女だからと言う理由で、そう言う環境下に置かれている事も、割と早くに自覚した。

巫女は神聖視されているらしい。

里の人間達は私を恐れ敬っている。

だから無闇に近寄らない。

理由は解っていた。

解っていたが……やはり、寂しかった。

実を言ってしまえば、私は小さい時に何度も何度も泣いた。

誰にも見られずに、誰にも見つからないように。

博麗の巫女であると言うだけで、誰も近付いて来ない。

それが堪らなく寂しくて、ただ悲しかった。

成長するにつれて、私はあることを思いついた。

誰かと深く関わり合いにならなければ、なろうとも思わなければ傷付くことも無い。

単純な考えだったが、とりあえずの効果としては十分だった。

博麗の巫女と言う肩書きも手伝い、里の人間と私の距離、関係は益々冷えて、離れた。

けれど、それで私は良かった。

相手がいなければ、誰も求めなくていいのだから。

魔理沙をはじめ多くの、里の人間達とは別の、言うなれば変わり者の連中が神社に出入りするようになっても、私は変わらなかった。

彼女らも、博麗の自分しか見ていない。

私を、霊夢を見てくれる人は居ない。

力ある者に従い、慕うのは何も動物の世界だけではない。

人であっても、妖怪であっても、それは存在する。

博麗である私を、皆は見ているんだ。

その証拠として、例えば、魔理沙は私に追いつこうと今日も何処かで修行しているのだろう。

私ではない、博麗の力にだ。

私の使う力の内、私自身の力は微々たる物だ。

特に何もせずとも私は強い。

全部、巫女としての力のおかげだ。

魔理沙が見ているのは、巫女の力なんだ。

同じなんだ、誰もが皆。

魔理沙とは良く遊ぶし、彼女は私のことを霊夢としても扱ってくれてると思う。

けれど、彼女も博麗の私を見ている。

多分、霊夢よりも。

……それが気に食わない、許せない、悲しい。

私だけを、博麗の巫女と言う色眼鏡を通さずに私だけを見てくれる人は、誰も居ない。

ならば、気にしなければいい。

里の人間達に対する考えを、彼女達にもそのまま当て嵌めればいい。

それで対応出来る。

誰もが皆、私にとって平等で無価値な存在になる。

つまり、私には、友達がいないんだ。

誰も私を霊夢として見てくれる人は、友達は、いない。

……そう。

皆、誰も私にとって特別な存在では無い……。

その筈だった。

「アリス……」

彼女は、何故か違った。

平等で無価値な存在である他者の中で、彼女だけは私の中で何かが違った。

何故?

何が違うのか。

解らない……解らないけれど、違うと言うことだけは確かだった。

私は彼女の笑顔を思い浮かべながら、その疑問の答えを探る内に眠ってしまった。




家に着くと、私は急いで扉の鍵を開け、中へと入って扉を閉め、鍵を掛けた。

この顔を誰かに見られたくない。

真っ赤になっている私の顔を。

「やった!霊夢が明日も行っていいって言ってくれたよぅ……」

心も身体も羽の様に軽くなったみたい。

私は嬉しくて、家の中で小躍りした。

霊夢。

彼女の顔が心の中に浮かんだ。

艶やかで綺麗な黒い髪。

可愛い顔。

よく通る、綺麗な声。

優しい笑顔。

「私なんかを相手してくれる、たった一人の人……」

彼女の事を思うと、胸が熱くなる。

霊夢のことで思考が埋め尽くされ、鼓動は不規則に、大きく乱れる。

嬉しくなって、ずっと一緒に居たいって思う。

こんな気持ちになる相手は、霊夢しか居ない。

彼女は特別なんだ。

私にとって、唯一人の友達。

唯一人の、大好きな女性。

あの時、忘れもしないあの時から、ずっとずっと、大好きな貴女。


数年前。

壊れた人形の修繕の為に里へ買い物に出掛けた帰り。

早く壊れた子を直してあげたくて注意を怠ったのが失敗だった。

私は妖怪に不意を突かれて怪我をしてしまった。

私を人間だと勘違いしたらしい。

空を飛ぶ人間なんてそうそう居る筈も無い。

きっと新しい妖怪だったのだろう……今となってはどうでもいいが。

相手は大した事の無いヤツだったので、怪我をしてても撃退出来たのが幸いだった。

が、怪我の原因である、そいつの爪には毒があったらしく、私は魔法の森の半ばで墜落してしまった。

全身を強く打ち付けて、枝に引っ掛かって擦り傷だらけになってしまった。

毒も徐々に身体を蝕んで行く。

毒の影響なのか、身体が焼けるように熱かった。

汗がどっと噴き出し、呼吸がヒューヒューと耳障りだ。

まだまだ未熟な私の身では、この毒で死んでしまうだろう…。

もっと修行して、もう少し高い階位に登っておけば良かった……。

後悔先に立たず、意識が朦朧として来た時だった。

「こんなトコで寝るなんて、どう言う神経してんのよ、貴女」

それが、始まりだった。

霊夢は私に解毒の呪いを施して毒を清めてくれた後、私を家まで運んでくれた。

そして、汚れた私をお風呂に入れて身体を洗い、傷の手当てをして、着替えまでしてくれた。

その上、私の熱がようやく下がった、その日の明け方までずっと優しく看病してくれた。

私が目を覚ますと、「朝ご飯、作っておいたわよ。ありがたく食べなさいね」とだけ言って、私がありがとうを言う間も無く去って行ってしまった。

その朝ご飯は暖かくて、まるで私が目覚めるタイミングを見計らって作ってくれたかのような気がした。

味は最高だった。

……こんなにも、誰かに優しく接して貰えたのは初めてだった。

私は凄く嬉しくなって、かつて無い幸福感に包まれた。

素っ気無い態度だったけれど、彼女は間違いなく私に優しくしてくれた。

私は後日、神社へ行った。

お礼を言う為にだ。

せめてものお礼にと、里へ降りてお茶菓子を買いに出た。

そこで、里の人間達の話を聞いて、私は驚いた。

……私が襲われた日、つまり一昨日。

霊夢は里の依頼で妖怪の退治を請け負っていたらしいのだ。

それなのに霊夢は一昨日、里に現れず、その翌日に来たらしい。

幸いにして一昨日にはその妖怪が現れなかった為に大事には至らなかったようだが、里の人間達は不満を漏らしていた。

…その妖怪は霊夢が来たその日に瞬殺されたらしいとも聞いた。

(私のせい、よね……霊夢が悪く言われてるのは……)

申し訳なくなるのと同時に、彼女への感謝の気持ちが更に増した。

里の事より私を優先してくれた。

このことが、何よりも私を嬉しくさせた。

ありがとう、霊夢……。

この時から、私は彼女のことが大好きになった。

私がお礼を言いに行った時、「別にいいわよそんなこと」と言って、自分のしたことを誇りもせずに普段通りに振舞って、それでいて、「動き回って平気?」、「寝てた方ががいいんじゃない」とさり気無く心配してくれたのが、更に嬉しかった。

私はその日、霊夢を二度、大好きになった。

それから、今。

彼女の事を好きになってしまってから数年の時が過ぎた。

時が経つ度に想いは強くなって行く。

そして、不安も。

私は、彼女の友達なのだろうか?

私は友達になりたい。

友達でいられたら。

けれど、霊夢は?

貴女は私のことをどう思っているの?

彼女の事を想う度、私は何度も何度も悩んだ。

このままズルズルと日々を過ごしても、私は彼女にとってただの知り合いで終わってしまうのではないかと。

彼女と一緒に居たい。

友達になりたい。

そして……。

ううん、その先はきっと駄目だ。

そう、その先はきっと駄目。

けど、駄目でもいい。

彼女の傍に居られれば、それで。

知り合いなんかじゃなく、友達として。

……ただ、私には、彼女に「友達になりましょう」と面と向かって言える勇気が無かった。

誰にも言ったことの無い言葉。

受け入れて貰えるのだろうか。

拒絶されたら?

怯えたまま私は日々を過ごした。

あの日まで。

最近の出来事だった。

気分転換に湖へ散歩に出掛けた時、氷精(確か、チルノだったっけ)とその仲間達に、何でもいいから人形の芸を見せてくれとせがまれて、その時従えていた上海人形といくつかの藁人形を操って簡単な芸を見せてやった。

至極簡単な芸だったけれど、彼女達は大いに喜んでいた。

そして、私に、簡単なものでいいから人形の作り方を教えてくれと言ってきた。

私は鞄の中にあった材料で、簡単な藁人形を作ってやった。

材料の関係で粗雑な出来の藁人形になってしまったが、彼女達は満足そうだった。

そんな時だ、霊夢がやって来たのは。

多分、紅魔館からの帰りだと思う。

湖の畔で人形を作っている私に霊夢が声を掛けてきた。

「人形作ってるの?こんな場所で、珍しいわね」

氷精達と別れた後、勇気を出して霊夢をお茶に誘ってみた。

霊夢はあっさりと誘いに乗ってくれたので、私は内心ウキウキしながら家へと向かったのだ。

その時の会話の内容は今でも鮮烈に記憶に残っている――――いえ、霊夢との出来事はあの時助けて貰った時から全部覚えている。

……紅魔館周辺の木々が藁人形だらけになったことなんて覚えていないけれど。

霊夢との、お茶の時間。

霊夢が私に、「人形の作り方を教えて欲しいんだけど」と言って来た。

私が氷精達に人形の作り方を教えているのを見て、興味が湧いたと言っていた。

私には、これが絶好のチャンスだと思えた。

霊夢の方から、私と関わり合いを持ってくれた。

これを逃す手は無い。

この機会に、何としてでもあの一言を言おう。

「私と友達になって」

けれど、人形の作り方についてはすぐに教えることがなくなってしまった。

霊夢は覚えるのが早く、基礎は全部習得してしまったからだ。

私が彼女の元へ出掛ける口実は無くなってしまったけれど、私は勢いに任せて何度も神社へと遊びに行った。

もちろん、迷惑にならない程度に。

今の勢いがある内に、ちゃんと言おう。

絶対に。




今宵は満月だ。

月明かりのおかげで視界は良好、夜の冷たい空気が心地良い。

私はゆっくりと夜空を飛んでいた。

魔法の森にあるアリスの家からの帰り道。

今日も、私はアリスと二人で一日を過ごした。

今日は彼女に日本料理を教えてあげた。

私が作って見せた手本を「美味しい」と褒めてくれたことに、とても嬉しくなった。

……やはり、彼女と一緒に居ると気持ちが良い。

とても安心出来る。

こんな気持ちは誰にも抱いたことは無かった。

ずっと一緒に居たいと、感じる……。

この気持ちは一体何なのか?

疑問は益々大きくなり、彼女に会う度にもどかしい思いをする。

その内、狂ってしまいそうだと、そう思う程にこの疑問と、彼女のことが私の心を支配している。

何故、こんなにも彼女が気になるのか。

解らない……。

思考の渦に身を委ねながら飛んでいると、遠くの方に見知った顔を見つけた。

特異な色調の法衣。

竹林にある永遠亭に住む薬師、八意 永琳だ。

往診用の鞄を手にしているので、恐らくはその帰りだろう。

彼女を見て、置き薬の残りが少ないことを思い出す。

「丁度良い、かな」

彼女に薬を貰っておこう。

夕飯は済ましてあるし、後は帰ってお風呂に入って寝るだけだ。

私は永琳を追って、飛ぶ速度を上げた。


「はい、風邪薬。こっちは傷薬で、それは頭痛薬。胃薬はそれ。あ、それは駄目よ?戦術神風の試作品だから」

空の上で捕まえた永琳と共に永遠亭へとやって来た私は、彼女の部屋で薬を受け取っていた。

「よし、大体こんなものかな…?」

不足分の薬を受け取り、他に必要な物は無いかと記憶を手繰っていると、包帯が足らなくなっていることを思い出した。

「永琳、包帯はある?」

「ええ、もちろん。そこの引き出しにあるから好きなだけどうぞ」

「りょーかいっと」

こう言う時、お金のことは余り考えない。

後払いだし、いざとなったら踏み倒す。

いや、ちゃんと払うけどね。

とにかく、「好きなだけ」と言う以上は好きなだけ貰って行くのが礼儀と言うものだろう。

「これね」

引き出しを開けると、中には薬瓶がびっしりと入っている。

包帯はその隅にあった。

「今あるのはそこにある分だけだから。足らなかったらまた後で来て頂戴」

「ん、十分よ」

包帯を取ろうと引き出しに手を入れた時だ。

包帯の横の薬瓶が目に入った。

黒い色の瓶。

ラベルには「尋問用」と書かれている。

「永琳、この薬、何?」

軽く興味を惹かれた私は、紙袋に薬を詰めてくれている永琳を呼んだ。

「どれ?…ああ、ソレか」

永琳にその瓶を見せると、彼女は苦笑しつつ教えてくれた。

「捕虜の尋問用に調合した、強力な自白剤よ。八意印の副作用一切無し、目的以外の余分な効果は一切無い機能的な薬よ。懐かしいわね……」


永遠亭からの帰り。

私は貰った薬の入った紙袋を持って、帰路を急いでいた。

そわそわして落ち着かない。

興奮している。

紙袋の中身、それが原因だ。

……私は、先の自白剤を永琳から譲って貰うことにした。

「何に使うか聞かないんだ?」

「身近に居る嘘吐きに飲ませるんじゃないの?」

「さて、ね……」

意外とあっさり渡してくれたので驚いたが、後払いの料金がちゃっかり増えていた。

何故、こんな薬を欲しくなったのか。

それは、彼女が自白剤だと言った時、私の中で邪な考えが閃いたからだ。

ちょっとした遊び。

最近、気になるあの娘への悪戯。

簡単な遊びの気分だった。

(明日、飲ませてみようっと。うふふふふ……)

逸る気持ちを抑えつつ、私はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて家への道を急いだ。


翌日。

今日は朝から興奮しっ放しだった。

今日は昨日の続きで、アリスの家で彼女の料理の練習をすることになっている。

彼女の家ならば邪魔は入らない。

紫や萃香、あの天狗に邪魔されないよう結界も張るつもりだ。

アリスの秘密を聞き出して、それを突っついてからかう。

それが私の計画。

「貴女が悪いのよ、アリス。いじめたくなるような貴女が……くくく」

別に大したことを聞くつもりは無い。

ちょっと恥ずかしいことを聞いてみるだけだ。

彼女を傷つけたりするようなことは絶対にしない。

「さあ、そろそろ時間ね」

永琳に聞いた説明では、効果は約ニ時間。

お茶などの液体に一滴たらせばそれでOK。

服用した者は何でも答えるようになる。

「アリス…たっぷり可愛がってあげるわ」

魔女でもやっていた方が似合いそうな、意地の悪い笑みを浮かべて、私は家を出た。


予定の時間より少し遅れて、私はマーガトロイド邸に到着した。

「いらっしゃい、霊夢」

「いらっしゃったわよー」

笑顔で迎えてくれるアリスに、私も笑顔で応じる。

「ごめん、ちょっと遅れたわ」

「ううん、いいのよ。気にしないで」

「ありがと」

遅れたのは、例の悪戯の為に、邪魔が入らないように結界を張ってきた為だ。

準備万端、後は一服盛るだけ。

「ふ、ふふふふふふ……」

駄目だ、笑いが込み上げてくる。

さあ、どんな質問をしてやろう……。

「霊夢?どうしたの、何かいいことあった?」

「なぁんでもないわよ?ささ、ご飯作りましょうか!私達のお昼ご飯にもなるんだし」

「え、うん…」

頭の上に「?」を浮かべるアリスに従って、私は家の中へと入って行った。


昼食の後片付けを終えた後、食後の気だるい雰囲気。

私と向かい合わせの席に、瞳を半開きにして惚けた表情のアリスが座っている。

……成功だ。

私が用意した煎茶、彼女の分に例の薬を垂らしておいたのだ。

今のアリスは、私の問いに何でも答えてしまう状態にある。

薬の効能には催眠効果もあって、今の彼女に私が質問しても、そのことは彼女の記憶に残らないようになっている。

(完璧だわ)

外部からの邪魔はまず入らないし、誰かが来ても時間稼ぎが出来るように細工をしてある。

私はゆっくりとアリスに質問することが出来るわけだ。

「アリス」

「はい…霊夢」

とろんとした目で私を見るアリス。

その無防備な表情が嗜虐心をそそる。

(いつものアリスの方が好みだけど、この表情も捨て難いわ……)

席を立ち、アリスの背後に回って、彼女の頬に指を這わせてみた。

「あ……」

ぴくん。

アリスの身体が微かに跳ねる様に反応する。

無表情のままで。

それが、私を興奮させる。

ぞくぞくと、嗜虐心の波が私の身体と心を震わせた。

(いけない、いけない……)

今はこんなことをしている時じゃない。

この時間は短いのだ。

もっと有意義に使わないといけない。

「よっと…」

アリスを席から立たせ、抱きかかえて隣の部屋に行き、そこにあるソファへ座らせた。

アリスの身体は細くて軽く、折れてしまうんじゃないかと思った。

アリスを座らせた後、部屋のカーテンを閉めて外から見えないようにすると、私は早速質問を開始した。

「さあ、アリス。今から私が質問することに全部、正直に答えるのよ。いいわね」

「はい……」

従順なアリスに、私は征服感を覚えた。

今、彼女は、私だけの彼女だ……!

(私だけの、アリス……!!)

何故か、それはとても魅力的な響きだった。

私は、彼女を欲している?

まさか。

見れば見るほど可愛い顔をしている。

同じ女として軽い嫉妬を覚えるくらいに。

(あ、しまった……。だから、こんなことをしている場合じゃない)

見惚れていた自分を慌てて現実に引き戻す。

(大体、今のアリスはアリスであってアリスじゃないのよ?征服するのなら普段の彼女を…じゃなくて!ええい、とにかく質問の内容を考えねば……!)

頭をぶんぶんと振り、私は冷静さを取り戻す様に努めた。

……………………。

………。

よし、私は冷静だ。

「さて、何を聞こうかな…」

いざ、面と向かうと何を聞いたらいいのか解らなくなった。

昨日の内にいくつか考えておいたのだが、それを忘れてしまったようだ。

……アリスが可愛いから。

「えー、あー……じゃ、じゃあね、まずは……」

とりあえず、好きな食べ物を聞いてみよう……。


好物、嫌いな物、3サイズに体重等等……。

自分でも呆れるくらいに簡単な質問しかしていない。

時間は…まだ五分も経っていなかった。

(考えろ!考えろ私……)

またとないチャンス。

何か聞いておきたいことは無いか?

当初の目的は、とりあえず嫌いな物を使うことで果たせそうだが……薬の効果はまだ続いている。

利用しなくては勿体無いだろう。

(何か……うーん)

質問のネタを探して部屋を見回してみる。

が、そうそういいネタが転がっている筈も無い。

諦めて再び熟考しようとした時だ。

部屋の隅にある戸棚の上に、写真立てを見つけた。

「これは?」

私と、アリスが写っている写真。

以前、天狗に撮らせた一枚だ。

私は、まあいつも通りに、アリスは何故か嬉しそうに微笑んで写っている。

よく撮れている写真だ。

私の分も貰ったのだが、アルバムに収めてしまっている。

「何で、あんたは嬉しそうにしてるの…」

アリスには聞こえないように呟いた。

そう、何故。

その時だ。

「…質問の内容、思いついたわ」

何故今まで気が付かなかったんだろう。

アリスの可愛さに浮かれ過ぎていたようだ。

肝心な疑問が、私にはあるじゃないか。

(どうして貴女と居ると、気分が良いのか。心地良いのか。一緒に居たいと思うのか)

何度自問自答しても解らなかった答え。

ならば、彼女に聞いてみるのはどうだろう。

「何から聞こうかな……そうだ、じゃあまずは」

私のことをどう思い、どう感じ、どう見ているのか。

私は、貴女と居ると楽しい。

嬉しい気分になるし、どこか落ち着く。

一緒に居たいと思う。

じゃあ貴女は?

そこまで考えて、私はあることに気が付いた。

彼女が目の前に居るからこそ、このことに気が付けたのかも知れない。

(私は、アリスのことを気に入っている)

漠然とした感覚しかないが、私は彼女のことを気に入っているのだ。

いや、むしろ。

「好き……」

彼女のことが、好き。

気に入っている。

だからなのか?

「私が、あんたと居たいって思うのは……」

好き。

気に入っている。

だから、傍に居たい。

傍に居ると気分が良い。

「私は……」

気が付いてしまえば単純なことだった。

私はアリスを気に入っている。

好きか嫌いかで問えば、好きだ。

だから。

(だから?そう、だから……)

…………もっと、親しくなりたい。

「っ!」

親しく。

友達に。

……友達。

私には、一人も居ない存在。

「私は、あんたと友達になりたかったって言うの……?」

どうして今まで気が付けなかったのか。

「そうか……私は、あんたが気に入ってたから、友達になって欲しかったから……」

友達なんて。

私は今更……。

でも、欲しい。

出来ないと、無理だと諦めていたもの。

絶望して、欲しいとさえ思わなかったもの。

それを。

「欲しくないと思ってて、実は欲しかったなんて……馬鹿よ、馬鹿。私の馬鹿」

自分の心の内を気付けなかった自分が愚かしい。

そして、諦めて、いらないと思っていたものを欲する、自分のムシの良さに腹が立つ。

「でも、やっぱり、欲しいな……」

誰かをここまで気にしたのは、多分初めてだ。

私は、彼女と友達になりたい……。

「…………でも、その前に確かめないとね」

私は、彼女が気に入っている。

だから友達になりたいと、今思っている。

では、彼女はどうだろう?

彼女は私を友達として見てくれるのか。

そして何より……。

「アリス、あんたは私をどう見ているの?やっぱり、博麗の巫女として見てる?それとも、霊夢として、私自身を見てくれてる?」

確かめなければならない。

(決めた、最後の質問)

これ以上は絶対に質問をしないと心に誓う。

さあ、答えて、アリス。

私はアリスの頭に手を載せて、最後の質問を投げかけた。

魔法を応用した、私のイメージを相手の思考に送り込める術を使う。

(巫女の力に頼るのが癪だけれど、我慢よ、我慢)

アリスが苦しそうな表情を見せた。

「ごめん…一時的なことだから、我慢して」

この術を使うことで、私の聞きたいことが彼女の思考に伝わる。

これで、確実な答えが聞きだせる……。

「アリス、あんたは、私のことをどう見ているの。霊夢としてみている?博麗としてみている?」

「あう…?霊夢?博麗?」

アリスはそれから暫く口を開かなかった。

質問の仕方が悪かっただろうか。

確かに、言い方が悪かったのかも……。

そう思った時、アリスが喋りだした。

「私…霊夢のこと……」

ゆっくりと、彼女の答えが紡がれて行く。

貴女は、私を?

その先は?

逸る気持ちを強引に捻じ伏せ、私は言葉の続きを待った。

「霊夢のこと…好きだよ…。好き……」

好き?

私を?

その言葉に、私の心は嬉しさで一杯になった。

ついさっき、好きだと実感した相手が、私のことを好きだと言ってくれている。

この嬉しさは、何ものにも替え難い。

だが。

(嬉しい…けど、その先が知りたいの……)

私はじっと待った。

その先を。

アリスは酷くゆっくりした口調で続けた。

それは、とても衝撃的な内容だった。

「霊夢が……何処の誰でも…霊夢は、霊夢だよ……私を助けてくれた、私に優しくしてくれた……。霊夢は、巫女…だから、私を助けてくれたの……?違う、よね……?」

彼女の言葉を聞いて、私は雷に打たれた気持ちになった。

私は、私。

それに、あの時?

いつだっけ……?

「私は……霊夢が、霊夢だから、好き……霊夢が、妖怪でも、幽霊でも、好きだよ……博麗とか、巫女とか……霊夢が気にしてることなんて、関係、無い…よ」

「あ、ああ……」

アリスの言葉が、私に染み渡って行く。

私は……!

嬉しさと、未だかつて無い幸福感に私は包まれる。

「ああ……アリス、私は……」

嬉しさで、視界が曇る。

涙だった。

私は今、泣いている。

「私は…貴女を、見てるよ、霊夢……」

その言葉を最後に、アリスがガクリとうなだれた。

「アリス!?」

私は慌てて彼女に駆け寄った。

「アリス?アリス!アリ……!」

「……すぅ…」

「え?あ……」

穏やかな寝息を立てて、彼女は眠っていた。

「もう…驚かせないでよ……」

安らかな寝顔で眠るアリスの頬に、私は指を這わす。

「そっか……あんたは、私のことをちゃんと見ててくれてたんだ……。霊夢として。博麗なんか気にしないで。そっか、そっか…………」

私は彼女と同じくソファに座ると、彼女の頭を膝に乗せた。

優しく頭を撫でる。

私のことをちゃんと、霊夢として見てくれて。

博麗として見ていない貴女。

「あんたが言う「あの時」がまだ思い出せないけれど……ありがとう、アリス……。それと、ごめんね、こんな目に合わせちゃって……」

……私はずるくて嫌な女だ。

こうして、貴女の意思を無視して「私をどう思っているか」と聞き出して、その結果に安堵して、貴女と親しくしたいと考える。

でも、知ってしまったから。

貴女は私を霊夢として扱ってくれる、初めての人だと知ってしまったから。

「信じちゃうからね……。友達になりたいって思っちゃうからね……。私、貴女と友達になりたい……」

何十年振りだろう?

私は久し振りに、友達を欲しいと心の底から願った。

何て、浅ましい女。

そんな自虐を持ってしても。

私は彼女を欲することを止めようとは微塵も思わなかった。




今日も今日とて、参拝客の一人も来やしない。

別に人が来る来ないに興味は無いが、少しは賽銭を入れて欲しい物だと思う。

境内の掃除もほぼ終わり、私は箒を片付けてお茶を淹れることにした。

今日はほうじ茶にしよう、そう思った時だった。

「霊夢?こんにちは」

空の上から、澄んだ綺麗な声が聞こえてくる。

大好きな友人の声だ。

「あら、アリス。こんにちは」

「今、空いてるかしら」

言いながら彼女は石畳の上に降り立った。

私はそんな彼女を尻目に自宅の縁側から家の中へと入って行く。

お茶を淹れる為だ。

「これからお茶。私は暇を貪るのに忙しいの」

魔法瓶(霖之助さん曰く「ポット」と言うらしい)からお湯を急須に注ぎ、茶菓子と湯飲みを用意する。

「私も一緒に貪ってもいいかしら?」

縁側からアリスが言ってきた。

「ええ、どうぞ。丁度、美味しいお茶菓子を仕入れたところなのよ」

二人分のお茶と茶菓子を盆に載せて、私はアリスの待つ縁側へ向かった。

「ああ、上海。それに蓬莱も。霊夢のお手伝いをしてあげて?ポットと急須、解るわね」

アリスが、いつも連れている人形に指示を出し、奥からポットと急須を運んでくる。

「ありがと。助かるわ」

「お安い御用よ」

にっこりと微笑むアリスに、つられて私も微笑んだ。

二人で肩を並べて縁側に座る。

良く見れば、彼女は何やら大きな鞄を抱えていた。

私が鞄を見つめているのに気が付いたアリスは、頬を微かに赤くしてぼそぼそと喋りだした。

「ねぇ霊夢…」

「うん?どうしたのよ」

お茶を啜りながら先を促す。

…何となく見当はついているが、敢えて言わない。

「ん?」

ちょっと意地悪く、彼女に言わせるのが……良い。

「きょ、今日さ……泊まっていっても、いいかな……?」

声は益々小さくなっていき、ごにょごにょとしか聞こえない。

頬を赤く染めて、両の人差し指を合わせてもじもじさせるその仕草が堪らなく可愛い。

「もう用意して来ちゃったんでしょ?いいわよ」

「え、いいの?」

「いいって言ったでしょ。それに、もう何回も泊まりに来てるんだし。そんなにいちいち改まらなくたっていいわよ」

「あ、ありがとう霊夢……」

「いいってば」

御代は貴女をいじめて楽しむことで勘弁してあげるから。

どんな可愛い行動を取ってくれるんだろう?

「きょ、今日はね、私が霊夢にご飯を作ってあげるわ!」

「あら、嬉しいわね。何をご馳走してくれるの?」

「それは後でのお楽しみよ」

まあ、いじめるのは意地の悪い趣味なだけで。

彼女と一緒に遊んで、食事して、話して、一日を過ごすのはとても楽しい。

「ふぅん。じゃ、期待しちゃおうかな」

「任せて。美味しいの作っちゃうんだから」

彼女の笑顔が私を幸せにしてくれる。

誰かと一緒に居てこんな気持ちになれるだなんて思いもしなかった。

「ねえアリス」

「何?」

「今度、どこかに遊びに行かない?二人きりでさ」

「う…うん!行こう!絶対行こう!」

どうしてもっと早くに気付かなかったんだろう。

どうしてもっと早くこの関係になっていなかったんだろう。

「約束よ、アリス?」

「もちろんよ、霊夢」

友達って、いいな。

ありのままの私を見てくれる、唯一の人。

私の友達。

私だけの、友達。

絶対に、失くしたくない。

ずっとずっと、一緒に居ようね。

…………私だけのアリス。

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