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恋色ふぁんたじー


 前作でデストロイされてしまった魔理沙への御詫び的な気持ちで書いた話。なので、所謂マリアリにする気は無かったものの、前作では叶わなかった、アリスとの仲良し関係をやってみました。
 ……二次創作なのに、自分のオリジナルばりに、マジになって色々と考えてる自分に気付き、穴掘って埋まりたくなったのは秘密の話。今でもそうだなんて、口に出しては言えません。

 全体的、というか骨格からしてパロディネタだらけの作品。マニアックなネタは多分無い筈ですが……。ジグマール隊長は有名な筈。プリンセスクラウンも、知ってる人は多いよね?
 クライマックスのアリスさんはRXをイメージ。剣で隊長のブレスを受け止めて、それを跳ね返すのは対ガテゾーン最終戦等を参考に。……この辺、描写が弱くて伝わってない感じが大です。精進精進。

 割と強引な展開、露骨な説明口調、しょぼい戦闘シーン、つまらんギャグと、課題が山積みな作品ですが、自分的には楽しめて書けたと思います。


すきま妖怪も起きている丑三つ時。

魔法の森にひっそりと佇む、小さくも大きくも無い洒落た造りの家…マーガトロイド邸。

七色の人形遣いが住むその家の窓の一つに、小さな円形の穴が開いた。

そして窓の留め金が外れる微かな金属音。

そこには何も居ない。

だが……。

「おおー、凄いぜ。香霖堂で買ってきたこの「硝子斬り」って奴。流石は最新版だな、何が最新なのか知らんが。音がしないってのはいいぜ」

男口調の少女の声が小さく聞こえてきた。

「パチュリーの奴から譲ってもらった姿と魔力を透明にする薬の効果も抜群だしな。さっきのミスティアの驚き方は笑えたぜ」

聞こえないように小さく、うふふと笑う。

霧雨 魔理沙である。

香霖堂で購入(強奪)した硝子斬りとパチュリー・ノーレッジから譲って(強奪)もらった魔法薬を使い、この家に遊び(不法侵入)に来たのだ。

この家の主である人形遣い、アリス・マーガトロイドは、魔理沙がたった今窓を開けて家に侵入したことに気付かず、ぐっすりと眠っていた。

無論、魔理沙が昼夜を問わず侵入してくるので(普通に遊びに来ることも稀にあるが)、迎撃及び警報代わりに人形を配置していたのだが……。

「気配も消せるとは凄い薬を作ったもんだぜ」

魔女の魔法薬は、魔理沙以外の者にとってありがたくない方向で、その効果を如何無く発揮していた。

「さてさて、書斎はっと」

足音を立てないようにそっと、しかし素早く歩を進め、魔理沙は苦も無くアリスの書斎へと侵入を果たした。

「アリスの家は割とレア物が多いからなー」

れっきとした泥棒行為なのだが、魔理沙は特に悪気が無いようだ。

「借りるだけ借りるだけ。死んだら返すぜ。お前らは長生きっていうか死なないようなもんだし、人間の寿命の間くらい短いもんだろ」

悪びれた様子も無く一応の言い訳を誰に向けるとも無く呟くと、借りると言う名目の略奪を開始した。

「何かイカした魔道書とかマイジックアイテムは無いかな」

そう呟きながら魔理沙は本棚から適当に選び出した本を次々と持参してきた袋に放り込んでいく。

「お?」

アリスの書斎を好き勝手に物色していた魔理沙の手が止まる。

魔理沙の視線の先。

書斎に置かれている、高級で頑丈そうな大きい机。

綺麗に整頓されている机の上、その中央に置かれている本。

皮製と思しきストラップで縛られている。

その本から、淡い魔力が漏れているのに気が付いたのだ。

「こいつは…相当レアなんじゃないか?」

手に取ってよく観察してみる。

ストラップは本を封印しているギアスのようだった。

それも、かなり高度な魔法の品である。

それでも尚溢れ出す魔力……。

魔理沙の、白磁の小瓶の様な喉が生唾を飲み込みコクンと鳴った。

ギアスだけでも相当なマジックアイテムと見て間違い無いだろう。

そして本の方は、封じられているだけの価値があるということだ。

「それだけ強大…もしくは危ないシロモノってことか?」

蒐集家である魔理沙にとって、それは魅惑的なもの以外の何物でも無かった。

回収決定、魔理沙の脳内会議は招集された途端に議題を即決する。

「いい借り物したぜ。サンキュー、アリス」

アリスの書斎から「拝借」したものでパンパンに膨れ上がった袋を箒に括り付けると、音を立てないように低速で飛行し、自分が侵入して来た窓へと向かう。

「じゃあなー。いい夢見ろよ」

無事に脱出を果たすと、窓を閉めて留め金を掛け、切り取った硝子を元の位置にはめる。

「……」

小声で早口に呪文を唱えると、はまっていただけの硝子は、元の窓硝子へと姿を戻ってしまった。

簡単な修繕魔法である。

パチュリーが使う魔法の一部を魔理沙が盗んで独自に開発した魔法である。

その為効果はやけに低い。

小さなものなら、損傷箇所がすべて揃っている上で壊れた時からあまり時間が経っていない時に限り修復出来るというものだ。

窓を直したのは魔理沙が言うところのギブアンドテイクらしい。

一方的過ぎるギブアンドテイクだが、それを気にする魔理沙ではない。

「今夜はもう貫徹だな!」

高揚する気分を込めて、箒を加速させて一気に夜空へと舞い上がる。

重たい袋をぶら下げながらもその速度は鈍ること無く、幻想郷の夜空を黒い光となって翔けて行く……。



「帰ってきたぞと勇ましく~。ただいまだぜ」

自宅に着くと、魔理沙は早速戦利品の品定めへと入った。

慣れたもので、袋の中身は一時間もしない内に大半が勘定を終えて、魔理沙が言うところの分類別の場所に放り込まれて行く。

他人が見ても整理などされていないのだが、本人が解ればいいとは魔理沙の談である。

しかしその本人も実はよく解っていないのは如何なものか……。

「さてさてっと」

他の品々を手早く鑑定し終えた魔理沙は、最後に残しておいた例の本を取り出した。

「うふふ」

どうにも笑みが止まらない。

先程から頬が緩みっ放しである。

探査魔法でギアスを入念に調べていく。

「ふむふむ。めっちゃくちゃ高度な魔法が使われてる割に……解除とか、操作は簡単だな」

ギアスに使用されている魔法は魔理沙にも良く解らない代物であったが、解除する等の「鍵」としての基本操作を行うことは非常に容易だった。

「ここをこうして、この呪文をっと……よし、開いたぜ」

開錠の呪文を唱えると、銀のギアスはあっさりとその戒めを解き、封じられていた本が取り出せるようになった。

封じられていた本は分厚く、黒い表紙に金の文字でタイトルが綴られていた。

綴られていたのだが。

「読めん……」

古代魔法語だろうか。

「今度パチュリーにでも読ませてみるかな」

解読作業は後回しにして、試しにパラパラとめくってみる。

見た感じ、挿絵が多い。

何かの物語かも知れない。

「さて、読めないわけだが」

短い逡巡の後、魔理沙の頭脳は状況に最適な答えを弾き出した。

「読めなきゃ辞書引けばいいじゃん」

当然である。

「面倒だなー。まあ読めんでもそれなりに楽しめるが」

本棚から古代魔法語の辞書―――これもパチュリーの図書館から拝借しているものだ―――を引っ張り出すと、魔理沙は早速解読作業に移った。

先ずはタイトルから。

魔理沙は黒い本のタイトルと、辞書を見比べながらたどたどしく口を開き、タイトルを読み上げた。

そして。



「あぁぁぁあああああああああっ!?」

早朝のマーガトロイド邸に可愛らしい悲鳴が響き渡った。

悲鳴の主はこの家の主、アリス・マーガトロイドその人である。

アリスは、就寝前とは掛け離れた無残な姿に変えられた書斎の入り口で頭を抱えた。

「魔理沙の奴ね……!そうよ、こんな真似するのはあの田舎魔法使いの泥棒猫しかいないわ!!」

憎たらしい少女の顔が浮かんで、アリスは怒りで足を踏み下ろした。

引き出しという引き出しすべてが棚から飛び出し、中身をブチ撒け、壁に掛けてあった絵画は床に落ち、本棚からは本が飛び飛びにごっそりと無くなって虫食い状態だ。

「これじゃ、あいつの家と変わらないじゃない!いつかだったかは忘れたけど、酷かったわね……」

目の前に広がる惨状に頭が痛くなるが、このままにしておく訳にもいかない。

「皆、お願いね」

アリスがそう言って指をパチンと鳴らすと、どこからとも無く現れた無数の人形達が散らかった部屋を片付け始める。

整理整頓と清掃作業のコマンドを入力してある人形達である。

(いつか完璧に自立稼動する人形を作り上げて見せるわ)

忠実に作業を実行する人形達を眺め、アリスはそう思った。


片付けは10分程で終わった。

「よし、早さも精度も中々ね、我ながら良い出来」

朝食を終え、アリスは紅茶を飲みながら片付けの終わった書斎を眺め、感想を漏らした。

「さてと、盗られた物をチェックしないとね…」

飲みかけの紅茶を机に置くと、アリスは蒐集物のチェックを開始した。

すべての蒐集物には可能な限り魔法の目印を付けておくのがアリスの管理の仕方だ。

その目印を意識の内に刷り込んだチェックリストに登録しておけば、何があって何が無いのか一発で解るという寸法である。

「だいぶやられてるわね……それも希少価値の高いヤツばかり」

いい加減慣れた感があるが、それでいい筈が無く。

「ちょっ!危険度SS指定の禁書が無い?!銀の弾丸44口径も、ああ、鮮血染めの鋸も無いわ!!」

穴だらけの高レアリティリスト。

見事にレアアイテム中心に盗られている。

「ったく、毎度毎度魔理沙のヤツ!一度懲らしめてやらないと……」

この台詞も、もう何度言ったことか。

三度目からは覚えていない。

覚えていていいことも無いだろうが……。

「シメてやるわ、あのド田舎魔法使い!」

愛用の鞄を引っ掴み、アリスは激昂した。

玄関の扉を勢い良く開け放つと、腕まくりも勇ましく、人形達を引き連れてアリスは一路、霧雨邸を目指して飛びたって行った。



魔理沙とアリスの家は、実際はそれほど離れていない。

道中何事も無く、アリスは霧雨邸の前へと降り立った。

「……変ね」

──違和感は霧雨邸の屋根が見えた時点であった。

近付くにつれて、それは次第に強くなっていった。

「かなりの強さの魔力だわ。でも、これはあいつの魔力とは全然違う……。それに…気配がしないわ」

怒りは沸点からだいぶ下がり、今は普段のアリスだ。

冷静に、今の状況に違和感を覚えた。

家の中から漏れて来る魔力と、人の気配がしないことにアリスは強い疑問を感じた。

「実験の途中で家を空けてるのかな。もしそうなら出直さないと……」

無人の家に無断で押し入って物を持ち出すのは空き巣だ。

魔理沙と同じ行為をすることを、アリスのプライドが許さない。

「そう言ったら、「私は借りてるだけだぜ」って言うだろうし。それにあの時は寝てたとは言え私は家に居たから空き巣じゃないし……」

魔理沙が居れば「細かいことを気にするなー」等と言いそうだが、アリスは自分の考えを変える気は無い。

「どうしよう、居ないのなら帰ろうかな。でも」

素直に帰宅することを拒むものが二つ。

一つは意地だ。

ここまで来たのだ、手ぶらで帰るというのも悔しいし、何だか負けたような気がして許し難い。

二つ目は霧雨邸から漏れて来る魔力の正体に興味を惹かれたからである。

アリスがこれまで感じたことの無い種類の魔力なのだ。

「危険な感じはしないけれど…何なのかしら?」

魔法使いなどと言うものをやっている者は、自身の探究心を少しでもくすぐられると黙っていられなくなる者が多い。

アリスも例外では無い。

「そうよ、見るだけ見るだけ……」

自分自身に言い訳をするように何度も呟いた後、アリスは霧雨邸の扉に歩み寄って行った。


「…誰も居ない?」

扉をノックしても、外から呼びかけても魔理沙は現れず、仕方なしにドアノブに手を掛けると施錠されていなかったらしい扉はあっさりと開いた。

玄関口で何度か呼びかけてみたものの、これも反応無しで、アリスは少し戸惑いつつも霧雨邸へと足を踏み入れた。

「何コレ…凄い魔力だわ」

扉の前に立った時点で解ってはいたが、実際に近付いてみるとその異様さはより鮮明に感じ取れた。

「魔理沙のヤツじゃないわね。何ていうか…落ち着いてる。賢者って言うのかな、かなりの上級者の魔力って感じ。感じたことが無いから異様に感じているだけみたいね。害は無さそうだけど」

未知であるが故に異様に感じられる。

アリスに緊張が走った。

……もしかしたら、上級の悪魔や魔神の類かも知れない。

「魔理沙が持って行ったものの中には、確か召喚系のアイテムもあったし…」

鬼が出るか蛇が出るか。

何にせよ用心した方がいいとアリスの本能が告げていた。

(気を引き締めないとマズイかな…)

覚悟を決めてアリスは一歩一歩、魔力の中心へと歩を進めて行く。

どうやら居間らしい。

以前、訪れた際の記憶がアリスにそう教えた。

(ヤバそうだったらすぐに逃げよう)

勝てない戦いはアリスの趣味ではない。

また、戦う理由も無い。

挑まれれば応戦こそするが、勝ち目の無い戦いは願い下げだと思っているからだ。

「魔理沙…?」

居間の前まで来たアリスは中へ向けて呼びかけてみた。

返事は、無い。

(どうする…?)

今ならリスクも少なく逃げ出せる公算が大きい。

しかし。

「ここまで来てる時点で引き返せないわね。やれやれ……私もあいつとあまり変わらないか」

魔法使いとしての好奇心が、危惧する意思に勝った。

意を決し、アリスは居間へと踏み出した。


居間には応接用の大きなテーブルと椅子、そして周囲を埋め尽くすガラクタやらマジックアイテムやら……要するに、散らかっていた。

アリスが過去に訪れた時と大して変化は無いように見える。

「ったく。ちゃんと片付けなさいよね」

あまりの散らかり具合に、アリスは呆れてしまった。

「整理整頓という概念が無いの?あの田舎魔法使いは」

居間の惨状を見回しながら、アリスは魔力の源を探していく。

(がらくたの山……無い。床は、違うな。天井?でも何もぶら下がって無いし。屋根裏はどうだろ…あ、この上は普通に部屋があったっけ)

アリスが居間に踏み込んでから5分弱が経過した。

魔力感知の魔法を使って部屋中をくまなく、入念に調べる内にアリスはあることに気が付いた。

「そう言えば私、盗られたものを返して貰いに来たんだっけ……すっかり忘れてた」

元々は盗品の奪回に訪れたのである。

しかし、アリスの頭は未知の魔力についての興味で埋め尽くされ、そのことをすっかり失念していたのだ。

「あー…どうするかなぁ。さっさと盗まれたもの取り返して帰るのが面倒無くていいんだけど……」

確かにこのまま盗品を回収して帰るのが楽だろう。

だが、それでは今している行為は無駄になる。

「何より……気になるのよね。この魔力の正体」

労力を惜しむか好奇心を満たすか。

熟考3秒。

「よし!探す」

面倒と好奇心を天秤に掛ければ、魔法使いは大概、好奇心を取るのだ。

「皆、お願いよ。探して!」

アリスは引き連れてきた多数の人形を一斉に居間へと放った。

それぞれに魔力感知の魔法と通信の魔法をかけてあるので、その内の一体が目的の物を見つけ出せばアリスに伝わるという仕組みである。

必要ならば持参してきた鞄の中の人形も使って、更に探索効率を上げる事も出来る。

「獲物はどこかしらね」

後は人形達に任せておけばいい……。

アリスがそう考えた直後、人形の一体からアリスの意識にサインが送られて来た。

「…!もう見つけたの?偉いわね…。ん、テーブルの下?」

目標を見つけ出した人形の頭を撫でて、展開した人形達を回収しながら、アリスは応接テーブルの下に潜り込んだ。

「ゴチャゴチャし過ぎよ!色んなマジックアイテムや魔道書の魔力でどれがどれだか…!」

応接テーブルは上も下も、椅子さえも色々なものが乱雑に置かれ、最早「応接」出来なくなっている。

アリスはテーブルの下を漁りながら、自分がごみ漁りをしているように思えて惨めに思えてきた。

実際にはごみではないのだが、こうも散らかっていればそう見えても仕方が無い。

「ん~っ、コレ、かな……っ、よっと」

目当てのものは、上から崩れてきたらしい本や布の下に埋もれていた。

それらを払い除け、ついにアリスはその正体を目にした。

「え、これって」

盗まれた蒐集物の一つの、黒い魔道書だった。


アリスは家に戻ってきていた。

今回を含む今までに取られた品々を残らず押収した後、件の魔道書を調べる為にだ。

アリスにはタイトルが解読出来なかったので、自宅に置いてある古代魔法語の辞書を引いて読むことにしたのだ。

「表題も読めない本、しかも魔法の本なんて、とてもじゃないけどそのままじゃ読まないわよ」

魔道書の中には、開くだけで何かしらの魔法が発動するものもある。

迂闊に開くことは危険なのだ。

「この本は確か、まだ調べてなかったのよね。ええと、……」

『超勇者黙示録』

黒い本のタイトルである。

口に出して読まなかったのは、タイトルが呪文、またはそれに順ずる魔法起動用の合言葉である可能性を回避する為だ。

「…何が「超」なのよ。勇者に大も超も無いでしょうに。黙示録って何だか偉そーねぇ……読む気失せてきたわ」

タイトルの古代魔法語から推察して、魔界という世界か、古代の魔法使いが書いたものだと判断する。

辞書を片手に、アリスは対魔法防御の結界を自身に施した。

未知の魔法の品を扱う際、自分を守る為に結界や呪いを施すのは魔法使いとしては当然のことだとアリスは考えている。

大方その通りなのであるが。

可能な限りの対策を終えて、解読作業に取り掛かろうとした時だった。

「おーい!出してくれー」

アリスの耳に、どこからか魔理沙の声が聞こえてきたのだ。

「魔理沙!?」

顔を上げて周囲を見渡すものの、そこには誰も居ない。

「空耳…?いえ、そんなことは無いと思うけど」

だが、気のせいだと思い再び説明書に目を落とそうとした時。

「助けてくれー!うわ、何だ!?離せっ」

「っ!魔理沙?居るなら何処に居るかぐらい言いなさいよ!!」

「あ、アリスか?」

「そうよ、どうしたのよ?どこにいるの?」

今度は悲鳴だ。

魔理沙の声から察するに、切迫した状況らしい。

アリスは慌てた。

仲が悪いとは言え、知った相手の悲鳴を間近で聞いて平素で居られる程、冷酷ではない。

「どこなのよ?言わなきゃ解らないでしょ!」

「ほ、本だっ…!わ!?」

「本?どの本よ?」

「く、黒い本、だ!くぅ…!!」

「黒い本…?」

アリスは、傍らにある『超勇者黙示録』に目を移した。

「あ!迂闊に開くんじゃないぜ!」

試しに本へ耳を近づけると、どうやらこの中から魔理沙は喋っているらしかった。

「ど、どう言う訳かその本を開いたら、急にページが光って、気が付いたら閉じ込められちまったんだ!って、ああもう、邪魔だぜ!魔符……!!」

「ちょ、どう言う事よ!」

アリスは反射的に本を開いた。

アリスが開いたページには、魔理沙と思しき少女が、巨大なドラゴンに捕らえられている挿絵があった。

「え、魔理沙?」

しかもその挿絵は動いていた。

アニメーションの様にである。

捕らえられている少女は、自分を捕らえているドラゴンの手を叩いたり、魔法と思しき光を撃ったりして暴れているが、ドラゴンに効果は無いようだった。

「魔理沙、そのドラゴンは?って言うかどんな状況よそれ!」

「ばっか、開いちゃ駄目だろうが!馬鹿かお前ばっかじゃねぇのか!?」

「な、何ですってぇ!?」

「うが!?い、痛いぞコイツ!離せぇ!!」

「ちょっと魔理沙!?大丈夫なの!」

「大丈夫じゃな…」

魔理沙は最後まで言葉を続けられなかった。

アリスが慌てた弾みでページをめくってしまったのだ。

めくられたページには、ドラゴンに連れ去られてぐったりしている魔理沙の姿があった。

「魔理沙!?ちょっと、しっかりしなさいよっ!!」

必死に呼びかけてみたが魔理沙は返事をしない。

「まさか、死んじゃったんじゃないでしょうね!?」

何度も呼んでみたが返事はしない。

挿絵はドラゴンがどこかへ向けて羽ばたくのみ……。

「魔理沙っ!」

いくら何でも、仲が悪いとは言え知り合いに目の前で死なれては感じが悪過ぎる。

慌てる自分をどうにか抑えようと、アリスは挿絵の横に書かれている文章に目を走らせた。

”王女は邪悪なドラゴンに気を失わされてしまいました”

”邪悪なドラゴンは王女を捕らえると自分の巣である「最果ての塔」へと飛び去ってしまいます”

「へ?」

王女。

何の単語だろう。

「ドラゴンにって」

文章は、物語であるのだから当然だとして、王女と言うのは…。

「魔理沙?」

そうとしか考えられない。

「ぶ…」

魔理沙が、王女。

「あの田舎っぺが、王女様!?あははっ」

先程までの自身の気持ちと、新たに入った情報により混乱したのか、アリスは思わず吹き出してしまった。

ひとしきり笑った後、アリスは文章の続きを読んでみた。

”囚われた王女は、冷たい鉄牢に閉じ込められ、重い重い鎖で繋がれてしまいました”

”王女を捕らえたドラゴンは、王女との間に子供を設けて、茸王国を乗っ取ろうとしているのです”

「茸王国って…!アイツにはお似合いじゃないの!あはははははははっ」

その後は、王女を助け出す為に国王が討伐隊を出す描写や、その討伐隊が全滅させられてしまうシーン、ドラゴンの配下である悪魔や魔物の大群が出現する描写、王女がドラゴンの子を成す準備として三度目の満月までというリミットがある等の説明が続き、ふらりと現れた遊歴の騎士が、国王、国民が困っていることを耳にし、健気にも強大なドラゴンとその軍勢に立ち向かう決意を固めるシーンまで物語は続いていた。

「ありがちだけれど、それなりに面白くはあるわね。続きが気になる……あら?」

騎士が旅発つシーンを最後に、本は白紙であった。

どんなにページをめくってみても、何も記されておらず、最後まで見ても何も写ってはいなかった。

「ど、どういうことよ、これは……」

どんなに目を凝らしても、霊視を使ってさえもそこから先は空白だった。

恐ろしく高度な魔法でカモフラージュされているのだろうか。

「何かヒントは無いの?こう言う古い本って、大抵は何かしら仕掛けがあるんだけど…。ん?」

ペラペラと本をめくっていると、本の最初に何やら毛色の違うページを見つけた。

「…取扱説明書?要するに、マニュアルね。えっと何々?」





超勇者黙示録 ~騎士・エドワードの邪龍退治~

プレイヤー人数:二人(騎士・エドワード役、王女・グラドリエル役)

危険度:上級

対象年齢:10歳以上

※単独で

魔道の心得が無い人は、必ず魔法使いの人と一緒に遊んでください。

本書は娯楽用に書かれた本です。……………(字が滲んでいて上手く読み取れない)を用いて専用空間を形成、童話『騎士・エドワードの邪龍退治』を追体験出来るものです。


(以下、アリスには良く解らない言葉でズラズラと何かが列記されている。恐らく仕様書と思われる)

遊び方

最初に、王女役を演じたい人が、本書のタイトルを、本書の第一ページ目を開いて声に出して読みます。
本書のタイトルが呪文になっています。
王女役の人が本書の世界に入り込んだら、騎士役の人は王女が攫われ、騎士が王女奪還を決意するところまでお話を読み進めてあげてください。
騎士が決意を表明したら、騎士役の人も王女役の人と同様の方法で本に入り込んでください。
後はストーリーに従って、行く手を阻む障害を退け、イベントをこなして行き、ドラゴンを退治し王女を助け出しましょう。

注意

・魔道の心得が無い人は、必ず魔法使いの人と一緒に遊んでください。重ねてお願いします。
・ 本書のタイトルがそのまま起動呪文になっています。
小さなお子様や魔道知識無い人の手に届かない場所に保管して置いてください。
また、読み上げないように注意してあげてください
・ この本は一度起動するとリアルタイムで事態が進行します。騎士の決意表明後、一度時間の進行は止まりますが、騎士役の人が世界に入ると、物語の制限時間が動き出します。制限時間内に王女役の人を助け出せないとゲームオーバーとなってしまうので注意してください。
・ 一定時間が過ぎても騎士役の人が参加しないと、ゲームの時間進行が開始されます。
「制限時間を短くしたい」等、厳しいプレイをされたい方は御利用ください。
間を置かずに制限時間を早めたい場合はP6の呪文を唱えてください。
・ 本書はゲームブックですが、中の世界は現実世界と何ら変化がありません。病気、怪我、場合によっては死亡する事も考えられます。現実感を追求した結果、この仕様と相成りましたので御了承下さい。
・ 期限内に王女を救出出来なかった場合、王女はドラゴンに襲われてしまいます。そうなった場合、王女は自力でドラゴンを撃退せねばなりません。
・ 騎士が何らかの形でゲームを続行することが不可能になった場合、ゲームオーバーの条件を満たし、やはり王女は襲われてしまいます。
・ ドラゴンは凶暴で上位のブラックドラゴンを用意致しましたので、騎士役、王女役双方に高い技量が要求されます。
・ 王女役を魔道の心得が無い人や、経験の浅い人が演じる場合は騎士役の人に高い技量が必要とされます。
・ 起動後、物語を終了するまで本書からは出られません。




「ちょ、ちょっとこれ…恐ろしく高度な術式よ!?私には解除も分解も出来そうに無いわ」

本…魔道書に使われている魔法は、アリスの理解を凌駕するものであった。

「これじゃあ外から魔理沙を回収するって真似は出来ないか。面倒だなぁ」

外科的手法で組み込まれているものを摘出出来ないとなると、それを構成するシステムのルールに従って解決するしか無い。

定められたルールに従うのだから、システムからの不具合は出ず、外内共に穏便かつ確実に目的を解決することが出来る。

「要するに、ゲームをクリアして問題を解決するのが最も有効で安全かつ確実な方法ってわけね」

つまりアリスが騎士・エドワードとなって、王女・グラドリエルである魔理沙を救い出せば良いのである。

良いのだが。

「……面倒臭い」

そう思った。

「助けてくれ、って言われたからつい助け出すことを考えたけれど…正直な話、魔理沙を助けてやる義理も義務も無いのよね、私には」

いがみ合うばかりの間柄。

顔を合わせれば互いに憎まれ口を叩き合い、果ては弾幕勝負。

おまけに蒐集物の横取りから、事もあろうに不法侵入、あげく窃盗だ。

アリスにとって、嫌いではあっても好きな相手では決して無い。

永夜異変の際は仕方なく組んで行動したが、基本的に顔を見たいとは思わない相手なのだ。

知り合いであっても友人だとは、とてもではないが言えない。

「今回のは自業自得よ。ひとのものを盗む奴が悪いのよ」

魔理沙の悲鳴を聞いた直後ではそれなりに心配したが、落ち着いた今は別段どうでも良い気がした。

「ま、これに懲りて盗むのをやめてくれたらいいんだけど。精々頑張りなさいよね」

アリスはそう言って本を閉じた。

「そうよ、どうだっていいわ。反省すればいいのよ……」

本を机に置いて席を立つと、アリスは書斎を後にした。


そして。

鞄を手にして戻って来た。

「……もしも死なれたら、夢見悪いし……!私のせいにされでもしたら、それこそ冗談じゃないしっ」

魔理沙のことは、嫌いだ。

出来ることなら顔を合わせたく無いし、自分に関係の無いところにでも行ってくれればいいとも何度か思った。

嫌いな相手なのだが。

「知ってる相手を見殺しになんかしたら、絶対夢見悪いし、後味悪いし!それに世間の評判ガタ落ちよ!…まぁ、世間なんてどうでもいいんだけど」

見知った相手で、悪くも悪くもそれなりに関係のある間柄である。

自分が知らない場所でならともかく、すぐ近くで、しかも見ている状況で見捨てることなど、アリスには到底出来なかった。

(本当、私ってば甘いわね……甘過ぎだわ)

そう思っても、アリスは魔理沙を助けに行くことを止めようとは思わなかった。

見捨てれば自分が嫌な思いをすることになる、それは絶対に嫌だ。

これがアリスを今、動かす最大の理由だった。

(あの白黒に、貸しを作れるしね)

すべては自分の為。

そう結論付けると、アリスは左手に鞄を、右手に黒い本を持ち、本のタイトルを口にした。




気が付くと、アリスは見知らぬ部屋の椅子に座っていた。

周囲を見回すと、そこは寝室のようだった。

物語の流れを思い出し、ここは騎士エドワードが王からの依頼を引き受けてから最初に立ち寄った村の宿屋だと認識する。

「……確かに、騎士だわね……」

アリスは、何時の間にか変化していた自身の格好を見てそう洩らした。

全身を覆う、白銀に輝くプレートメイル。

いかなる材質で作られたものか、重装備であるにもかかわらず、身は軽い。

持って来ていた鞄はバックパックに変化していた。

中身は人形が入っていたが、本の効果なのか、見た目小さなバックパックなのに、収まっている人形の数は鞄の中身と変わらない。

すぐ傍にあるベッドの上には、同じく白金色のラウンドシールドと、簡単な装飾が施されたグレートソード。

他にダガーやショートソード、財布に、恐らくは傷薬の類と思われるアイテム類が一式収まった肩掛け鞄。

更に、アリスの意識と身体は、剣術、体術と言った戦闘技術を覚えていた。

「全部、サービスって言ったところね…。本に書いてあったことから推測して、娯楽用のマジックアイテムと見て間違い無いわ」

装備を身に付けながら、これからのことを思案する。

「とりあえず、ここを出よう。それで人に話を聞いて……」

そう言いかけた時だ。

「騎士様!騎士様お助けを!!」

同時に扉を激しく叩く音。

「な、何よ?どうしたの!」

声の主は年老いた男性のものだ。

アリスは慌て気味に返事を返す。

「邪龍の手下です!恐らくは、最近各地を荒らして回っているという噂の軍勢の…!騎士様、どうかワシらの村をお救いください!!」

(ええ!?い、いきなりですってぇ!?)

邪龍は、即ち最終的に戦う相手だ。

その配下の軍勢がここに来ている。

いきなりの展開にアリスは慌てたが、すぐに冷静さを取り戻した。

(むしろ好都合よ、シナリオ進行をやってくれてるようなものだしね)

「騎士様っ…!」

アリスは意を決した。

「あーっ!もう、解ったわよ!やってやるわ!!」

アリスは激昂して扉を勢い良く開け放ち、部屋の外へと駆け出した。

「混乱しても慌てても意味が無いわ。暴れてる奴を速攻でやっつけて、ボスの居場所を吐かせてやるんだから!」

軋む階段を飛び降りて、豪快に床へと着地、宿の玄関を蹴破って外へと躍り出る。

意識化に刷り込まれた技術が無意識にアリスの身体を動かす。

普段の自分には決して出来ないアクションに、アリスは内心、爽快感を覚えた。

「敵は…!?」

視線を動かすと、すぐに相手は見つかった。

恐らくは村の中心地、広場に、敵はいた。

「げ」

その数、50。

アリスの知識から見て、ガーゴイル、ゾンビ、スケルトン、スライム。

他に、大きな獣や蛇、巨大な鳥までいた。

「これが邪龍配下のモンスター軍団って奴?何でこんなにうようよ出てくるのよ」

アリスは毒づいたが、すぐに気を取り直してグレートソードの柄に手を掛けた。

「確か、物語の追体験が出来るって話だけど、敵は容赦無しで、下手を打てば私は死ぬのよね…。なら手加減せずにやらせて貰うわよ」

抜刀。

陽光に照らされて、鋭い刀身がギラリと輝く。

同時に、バックパックを開く。

「皆、一気に畳むわよ!」

剣を担ぎ、アリスは魔物の軍勢に突撃を掛けた。

それに追従して、無数の人形達が各々の武器を手に魔物へ躍り掛かって行く。


戦闘は10分もしない内に終了した。

アリスの圧勝である。

「騎士エドワードってのは物凄く強いのね……」

息一つ乱さず、汗もかいていない自分に、アリスは驚いた。

人形達も含めてまったくの無傷である。

元々、弾幕勝負や魔法合戦等でそれなりに戦闘経験を詰んでいるつもりだったが、その経験も含めて今のアリスは強烈な強さを持っていた。

(騎士の能力に、本人が持っていた能力もプラスされるのね。思ったよりは楽そうね)

そう考えた時だ。

「テメェラ、何を人間なんぞに殺られてやがんだぁ!」

野太い声と共に、大地が揺れる。

「きゃ!」

たまらず尻餅をつくアリス。

「地震だーっ」

「わー」

脇役よろしく慌てふためく住人達を尻目に、アリスは村の中央を睨み付けた。

何かが、地面を割って出現した。

轟音を立て、土埃を舞い上げて、巨大な殺気の塊が大気を震わす咆哮を上げる。

「貴様か!コイツらを全部ぶっ殺しやがったのは!?」

巨大な獣だった。

黄色と黒の縞模様、要するに虎だ。

「だったらどうだって言うのよ」

「ブチ殺してやるぜ!!」

相手は相当に短気なようだ。

鋭い爪の生えた前足で、巨体に似合わぬ速度を持ったパンチを放って来た。

「いきなりな奴ね!名前ぐらい名乗ったらどうなのよ!!」

だが、その鋭い一撃もアリスにとってはスローモーションだ。

ひらりと身をかわすと、跳躍して虎の顔面に剣で勢い良く切り付ける。

「グワァ!」

そこから先は一方的だった。

虎の繰り出す攻撃は尽くかわされ、あるいはいなされ、逆にアリスの怒涛の剣撃でズタズタに切り刻まれてしまったのだ。

「弱いわねぇ」

「き、貴様が強過ぎる、だけだ…ガクリ」

またしてもアリスの圧勝で終わった。

「ふぅ」

剣を鞘に収め、アリスは溜息をついた。

「楽だけど、何か疲れるなぁ…こういうの」

戦闘がこの調子だとしたら楽ではあるが、恐らく物語の進行に沿って自分が動かされるのだろうな、とアリスは感じた。

村人達の歓声を聞きながら、これから情報収集やら何やらで忙しくなりそうだという予感に、アリスはげんなりとした。


一方その頃。

ここは世界の果てにある邪龍の棲家、皇魔城。

「うがっ」

吹き飛ばされて硬い石床に叩きつけられ、魔理沙は苦悶した。

「マスタースパークが……通じない?」

口内を切ったのか、血が混じった唾液を吐き捨てて、魔理沙は信じられないと言った口調で呟いた。

「大人しくしていて貰わないと困りますな、王女」

魔理沙が吹き飛んできた先、深い闇の中から、重低音の声が響く。

聞くものすべてに威厳と共に畏怖を抱かせる、低く重いその声が、魔理沙に語りかけるのだ。

「三度目の満月、その時に、儂の子を孕んでいただく故に」

「んなっ!?」

魔理沙の顔が耳の先まで真っ赤に染まる。

「ば、馬鹿言うなっ!そんなことっ、絶対に私は嫌だからな!!」

「フフフ……」

声の主は、自分の言うことは終わったとばかりに深い闇の中へ重々しい足音を立てて消えていった。

「……あいつ、デカ過ぎだしドラゴンじゃん。どうやって……」

そこまで言いかけて魔理沙は止めた。

そんなこと、あって堪るか。

しかし、魔理沙はこの場所から逃げ出すことが出来なかった。

魔理沙の首には、恐ろしく頑丈な首輪と、それを石壁に繋ぐ太い鎖があった。

この鎖にもマスタースパークを撃ち込んでみたのだが、効果は無かった。

(心なしか、出力が低いような……)

魔理沙は気が付いていないのだ。

王女役として侵入したこの世界では、王女役の人物の能力にある程度のリミッターが設けられることに。

「畜生……!!」

それを知らない魔理沙は、自分の無力さを呪った。

「やっぱり、私は弱いのか。努力しても、どんなに頑張ってみても駄目なのか」

脳裏に浮かぶのは、いつも顔を合わせる少女。

紅白の衣装が目に映える、博麗の巫女。

「くそっ!!」

羨んだ所で意味は無く。

助けが来るあても無い。

「アリス……は来るわけ無いな……」

自分が最後に声を聞いた少女の顔を思い出す。

「あいつ、絶対に怒ってるだろうからな…」

自分が盗みに入ったことに対し、アリスは絶対に怒っている筈だ。

「嫌われ…てるなぁ絶対。私もあんまり好きじゃないけど」

助けを待つしかないのだろうか。

「くそっ…!くそっ!畜生!!」

情けなさで涙が込み上げて来る。

自力でどうにも出来ない自分に腹が立ち、悲しかった。

自分が、誰かに助けてもらうことしか出来ないこの状況が悔しかった。

(アリスの奴が誰かに本を渡すか…あいつ自身が助けに来てくれる可能性を信じるか)

「後者は絶望的かもな……」

アリスが本をそのまま捨ててしまう可能性も無くは無い。

またはパチュリー等に渡して、そのまま図書館の片隅に未来永劫…………。

(やめやめ!後ろ向きなことばっか考えてたら全部駄目になる…!)

頬をピシャリと叩き、魔理沙はキッと天井を睨んだ。

「諦めないぜ……何とかしてやる。絶対に!」

拳を突き上げて、魔理沙はそう決意した。



それから先も、アリスにとっては苦難の連続であった。

灼熱の砂漠での巨大蠍と戦い、上級悪魔との空中戦、密林で巨獣との連戦。

極寒の雪山で雪女や巨大熊と死闘を繰り広げ、船旅をすれば巨大烏賊に海龍が現れて、これを討伐。

地の底に潜って大きなドラゴンとも戦った。

邪悪な魔女との熾烈な魔法戦に、難解なしかけを備えたダンジョンも幾度と無く制覇。

これらをすべて、アリスは二週間で突破してのけた。

怪物との戦いよりも、地形や天候といった仕掛けが、アリスを苦しめる。

敵の強さも徐々に上がっており、拍車を掛ける。

今やアリスの身体はボロボロだった。

全身傷だらけで疲労困憊、満身創痍と言っても過言では無い。

「何で私がこんな目に」

そう思い、何度も投げ出そうかと思った。

だが、アリスはそうしなかった。

むしろ積極的に立ち塞がる困難を打ち破り、先へ先へと進んでいった。

理由としては、途中で離脱する方法が解らない(これはアリスが、事前の情報収集が不完全なままでこの世界に飛び込んだ為、自業自得とも言える)ことが一つ。

それに、投げ出せば結局、後々苦い思いが襲ってくることも明白だった。

何より、この状況を作り出した魔理沙に強い怒りを抱き、「絶対に会って泣いてごめんなさいと言うまでボコボコにしてやる!」と密かな目標を持ったからである。

更には、いかにゲームの世界、プログラムの通りだったとしても、自分をここまで痛めつけて苦労させた邪龍とやらを叩きのめしてやらねば、とてもではないが溜飲が下がりそうに無い。

「く、くくくくく……!待ってなさいよ邪龍め……!!その首叩き落して木っ端微塵にしてやるわ……!!!」

正義の騎士とは思えない、まさに魔女の笑みを浮かべて、アリスは剣を振り回して次なる目的地へと駆け出した。

次の目的地で待ち構える魔物を倒せば、邪龍の棲家へと辿り着く……。



大気を震わせ、魔獣の断末魔が響き渡る。

最後の障害を打ち倒し、アリスは剣を納めて荒い息をつく。

邪龍に近付くにつれて、敵もそれなりに強くなってきている。

最初の剣は折れ、鎧も壊れた。

人形も残り少ない。

だがそれでも、アリスの闘志は折れず、むしろ猛っていた。

地平の彼方に、禍々しい雰囲気の古城が見える。

あれこそが、憎き魔理沙と邪龍の棲む皇魔城なのだ。

最終決戦用に装備を整えながら、アリスは古城目掛けて突撃した。



城を震わす巨大な咆哮と、激しい剣戟に魔理沙は目を覚ました。

「な、何だ?」

魔理沙が繋がれている部屋は、城の最上階に当たる小部屋だ。

急いで備え付けの小さな窓から外を見る。

そこから見えるのは城の中庭だ。

広大で、それなりに優雅な作りの庭園。

そこに、自分を捕らえた巨大な黒い龍と、その龍に単身挑みかかる一人の騎士がいた。

「た、助けが来たのか!?」

龍が敵…悪役だとするならば、戦っている騎士は正義の、もとい自分の味方の筈だ。

魔理沙は、自分が囚われの姫だと思った。

事実その役目を負わされているのだが、それに気が付けるほど魔理沙は冷静ではなかった。

白馬の王子が自分を助ける為に単身、巨大な敵に挑む……。

この構図に憧れを抱くのは、年頃の少女ならば無理からぬことだろう。

誰でもよかった。

本の中の住人であっても、外から助けに来た人であっても。

この非日常から救い出してくれるのなら、それは彼女にとって、等しきヒーローなのだ。

魔理沙は、その騎士の顔を見ようと、窓から乗り出し、目を凝らした。


迫り来る爪と牙、唸りを上げて襲い来る尾撃。

触れればあらゆるものを瞬時に炭化させてしまうであろう灼熱のファイアーブレス。

魔力で編まれた、幾条ものレーザーが石畳を抉り、雷撃の呪文と爆炎の呪文が地形を、原形を留めぬまでに破砕する。

邪龍の攻撃は苛烈を極めた。

どれも一撃受けただけで致命傷どころか即死しかねない威力を秘めた攻撃だ。

アリスはそれら恐るべき攻撃の数々を、魔法の楯で受け、あるいは剣で受け流し、跳躍し、魔法で相殺して何とかしのいでいた。

敵は強大だった。

力もある上に、巨体でありながら動きが俊敏で技量も恐ろしいまでに高い。

加えて卓越した魔法の腕まで持っているのだ。

アリスはろくに攻撃出来ずに、防戦一方に追い込まれてしまった。

更に始末が悪いことに、邪龍の鱗が、繰り出す攻撃のことごとくを弾き、流してしまうのだ。

「ゲァハハハハ!どうしたどうした小童めが!」

「くっ!」

「逃げ回っているだけではワシは倒せんぞ?」

「そんなこと解ってるのよ!」

邪龍の挑発を流し、アリスはすれ違いざまに斬り付ける。

だが。

「浅い…!」

「小賢しいわ!」

即座に邪龍の尾が、背後に回ったアリスに向けて繰り出された。

咄嗟に剣を楯にアリスはその攻撃を受け止める。

だが、その衝撃を完全に防ぎ切る事は叶わず、アリスは後方の壁に叩きつけられた。

激痛に呻きながら、殺気を感じたアリスは石の床を転がった。

アリスが叩きつけられた場所に、邪龍が繰り出した鋭い爪による貫手が深々と突き刺さっている。

アリスは気力を振り絞り、痛みに耐えて身体を起こそうとした。

起きねば、やられる。

剣を突き立て、杖代わりにしてようやく立ち上がったが、その直後に脇腹に鋭い痛みが走る。

「うぐっ…!?」

どうやら、かわし損ねたらしい。

視界が揺らぐ。

何とか剣を構え直すが、直後に爆風がアリスをぼろ雑巾のように吹き飛ばした。

足元に爆炎の呪文を打ち込まれたのだ。

石畳に背中をしたたかに打ちつけられ、楯を手放してしまう。

アリスの周囲に再び爆炎の呪文が雨のように降り注いだ。

まるでピンボールのように、アリスの身体はあらぬ方向に吹き飛ばされ続けた。

(こ、こいつ…私を嬲り殺しにする気ね!!)

鎧も壊れてしまった。

爆炎の雨が止む。

舞い上げられ、叩きつけられたアリスは吐血する。

(今までの比じゃない……。レベルが違い過ぎるわよ!!)

視界は霞み、意識は朦朧とし始める。

全身傷だらけで、その傷から流れ出る血と一緒に気力と体力が抜け落ちていく。

連戦の影響で、心身共に疲弊し切っていたアリスにとって、この状況は絶望以外の何ものでもなかった。

邪龍の放つレーザーが、アリスの頭目掛けて放たれる。

何とか頭を逸らしてその一撃をかわすが、兜は無事ではなかった。

衝撃で吹き飛び、土煙の彼方へと消え去ってしまう。

得意の人形も道中で使い切り、残された武器は手にしたグレートソード一本のみ。

(なんで私…こんなことしてるんだろう)

自分が何故、こんな目に遭わなければならないのか。

磨耗する思考の中で、アリスは自問する。

私は、何故。



塔の最上階から、騎士と龍の対決を、固唾を飲んで見守っていた魔理沙は、騎士の劣勢に思わず泣き出しそうになった。

「頑張れ!頑張って!死なないでくれよ!!」

自分を救いに来てくれた人が目の前で殺されてしまうかもしれない。

魔理沙にはそれが耐えられなかった。

「お願いだよ!死なないで、立ってくれ」

だが、騎士は立ち上がれず。

「せめて、逃げてくれよ……」

爆風に吹き飛ばされ、石畳に叩きつけられる騎士。

「ああっ!?」

思わず顔を両手で覆ってしまう。

殺されてしまう。

自分の為に、人が殺されてしまう。

例えそれが本の住人だとしても。

外から来てくれた人なら尚更に。

それが耐えられない。

閃光が走る。

魔理沙は、恐る恐る瞼を開けて、両の掌から瞳を少しずつ出して、戦場を再び見下ろした。

「っ!!」

騎士が倒れていた。

鎧兜を剥がされて、剣だけを離さずに倒れる騎士。

魔理沙は悲鳴を上げそうになる口を懸命に抑えた。

自分の悲鳴が、この戦闘を終わらせてしまうのではないかと思った。

騎士が、龍によって殺される、その引き金を引いてしまうのではないかと。

魔理沙は悲鳴を必死に堪えて、その騎士を見た。

立ち上がってくれ、生きていてくれ。

その願いを込めて、騎士を見た。

両の眼に涙を浮かべて。

歪む視界で必死に、目を凝らしてその姿を。

そして。

「あ…」

彼女は気が付くのだ。

「アリス……?」

自分が、「来る筈の無い相手」と期待から捨てた少女の姿に。

零れた涙が、風に流れて落ちていく。



霞む視界、淀む意識。

失われていく体力。

(何故、自分はこんな事をしているのだろう)

自問して見ても、今のアリスにその答えは出せそうに無かった。

ずしん、ずしんと、大地を揺らし、巨大な何かが殺意を振り撒いてこちらへ向かってくるのが解った。

何だろう?

何で私は。

殺されちゃうのかな。

解らない。

もう、考えたくない。

考えたく。


ぽた、と。

何かが彼女の額を打った。

暖かな水滴。

雨、ではない。

ならば、何だろう。

霞む瞳を凝らしてみた。

どうせ最後だ。

最後の探究心を大事にしてやろう。

アリスは上を見た。



そこに、魔理沙の顔があった。




倒れた騎士にとどめを刺すべく、悠然と歩を進めていた邪龍マーティン(設定年齢19歳・蟹座のB型《龍種換算》)は、その光景に我が目と正気を疑い、戦慄した。

プログラムとは言え、ある種の知能と自意識を持つ高度な存在である。

これまで相手に与えてきたダメージから推測しても、立ち上がれる筈の無い深手を与えた筈だった。

その筈だった。

だが。

「馬鹿な」

倒した筈の騎士が、再び立ち上がったのだ。

途絶えていた闘志が復活し、その勢いは猛る炎の如く。

「むぁぁりぃさぁぁぁぁッ!!!」

騎士が雄叫びを上げた。

「そこに居たのねぇっ!!」

埃塗れだが、美しい金髪を悪鬼の角の如く逆立てて、双眸は渦巻く炎の輝きを放つ。

「許さないんだからぁ……今度と言う今度は絶対に許さない!!」

身の丈もあろうかと言う大剣を、先程よりも更に軽々しく振り回し、城の最上階へと向けて突き付ける。

「お、おお?」

邪龍は混乱した。

この事態に対応すべく、邪龍は過去の記憶を探った。

邪龍自体はゲーム開始時に状況等を一度リセットされる存在ではあるが、過去の戦歴等のデータは本のシステム内部に蓄積される。

そこから導き出した答えは、どうやら騎士が闘志を取り戻したと言うこと。

即ちまだゲームは続いている。

結論が出ると、邪龍は気を取り直してアリスへと突進する。

だが、哀しいかな。

アリスにとって、邪龍は。

道傍の砂砂利以下の認識に成り下がってしまっていた。

咆哮を上げながら突進してくる邪龍の攻撃をひらりと跳躍してかわし、背後へと降り立つアリス。

間髪いれずに邪龍は尾による横薙ぎの攻撃を繰り出す。

だが、それよりも速く、湧き立つ闘気と魔力を込められた一閃が、邪龍の尾を根元付近から切断したのだ。

激痛に悲鳴を上げる邪龍に、背後から容赦無くアリスが襲いかかった。

「邪魔!」

怒りを込めた太刀が背鰭を斬り飛ばす。

「するんじゃ!」

返す刃で右の翼を根元から切り裂き。

「ないわよっ!!」

飛び上がっての唐竹割りで背中をザックリと切り裂いた。

鮮血を噴き出しながら、邪龍は激痛による絶叫を上げる。

怒れるアリスの連続攻撃に、邪龍は一方的に押し込まれて行く。

「おのれぇぇッ!!」

憎悪と憤怒が混じった声で、邪龍は吼えた。

深く息を吸い込むと、必殺のファイアーブレスをアリスに向けて吐き出した。

「五月蝿いのよ!」

しかしアリスは、これを剣の素振りで対応する。

超高速で振り抜かれた剣の軌跡が真空波となり火炎を切り裂き吹き散らした。

更に、真空波が邪龍の牙を数本切断する。

「グガァァァッ!」

ブレスを容易く破られたことに動揺しながらも、邪龍は落雷の呪文でアリスを攻撃する。

「五月蝿いって…」

邪龍はそれをかわすものだと思っていた。

アリスの回避先に爆炎の呪文を唱えようと構えていたのだが、アリスは回避せず、落雷の呪文を剣で受け止めたのだ。

「何ぃ!?」

いかなる魔法か、刀身に落ちた雷はアリスに感電せず、刀身に留まっている。

「言ってるでしょうがぁ!」

叫ぶと同時にアリスは剣を振り抜く。

振り抜かれた剣から、刀身に留まっていた落雷のエネルギーが解き放たれ、邪龍の身体を直撃する。

「ぐぅお!?き、貴様っ……!」

溜まりに溜まったストレスと怒りが、アリスの眠れる力と、騎士エドワードのスペックと合わさり超人的な強さをアリスに与えたのだ。

「目障りなのよ!邪魔するんだったら……」

アリスが邪龍の背を超す程の高度へ跳躍する。

邪龍は、そんなアリスをただ見ていることしか出来なかった。

(何故だ)

アリスが空中で身体を捻る。

(死に体であった筈の奴が、何故!)

捻りを加え両足を揃えたアリスが、邪龍の眉間目掛けて急降下を掛ける。

(何故!これ程の強さを…!!)

「アリスキィック!!」

揃えた両足が真紅の魔力光を放ち、邪龍の眉間にドロップキックが炸裂する。

「なぜだぁぁっ!!」

炸裂する強大なエネルギー。

眉間に強烈な衝撃を受け、邪龍は転倒する。

何倍もの大きさの邪龍の巨体を蹴り倒すアリスの強さは、尋常なものでは無い。

自分が倒された事に、邪龍…及び本のシステムは理解が追いつかない。

(いったい、何故……!)

倒れた邪龍は天を仰ぐ。

すると視界に、城の窓からこちらを見下ろす少女の姿があった。

(なる……ほど、な)

身を起こしながら、邪龍は勝手に何かを悟った。

「……の、力か……!」

「とどめよ!」

アリスが叫ぶ。

大上段に構えたグレートソードの刀身が、凝縮された闘気と魔力で眩い光を放った。

燦然と輝く光の剣を振りかざし、アリスは邪龍に斬りかかる。

「グゥオオオッ!!!」

邪龍も負けじと爪を繰り出すが、邪龍には解っていた。

勝負は既に付いていることに。

光の剣は邪龍の爪を腕ごと斬り飛ばし、返す刃が邪龍の身体をX字に切り裂く。

そして、身体を捻った渾身の刺突が、邪龍の身体を深々と抉った。

「ゴハァァ…!!ギャガォォォン!!」

貫かれた邪龍の背から、溢れんばかりの魔力がスパークし、火花を盛大に吹き散らす。

アリスが剣を引き抜き、邪龍に背を向けると、断末魔の咆哮を上げて邪龍は倒れ伏した。

「ふん!」

何故かポーズを取るアリス、そして何故か爆発する邪龍。

まるで、どこかの帝国が作り出した怪人の最期だった。

障害を粉砕し、アリスは勝利の雄叫びを上げる。

「ふ、ふふふふ……さあ邪魔は消えたわ」

鬼気迫る表情で笑うアリス。

その笑みは最早正義の騎士と呼べる物ではなかった。

元から違うのだが。

「魔理沙ぁ!そこで待ってなさい!!」

上を向きアリスは吼えると、城の中へと走って行った。



「つ、強過ぎる」

傷付き倒れ、殺されそうになった瞬間に復活、その後は圧倒的な強さで苦戦していた相手を一気に屠る。

子供向けの英雄譚に出てくる英雄顔負けの、アリスの活躍振りに魔理沙は溜息をつくばかりであった。

「あいつ、あんなにボロボロになって。でも、それでも私を……」

実際は魔理沙の顔を見て怒りに再度火がつき、邪魔されたことにより怒りが頂点に達し、その結果があれだ、というのが真実なのだが、囚われの身であることや、傷付き倒れかけて尚戦う姿を見ていた魔理沙には、アリスが自分を助け出す為に必死になって来てくれたとしか思えなかったのだ。

要するに、ときめいてしまったのである。

邪龍が倒れたことにより、魔理沙を戒める鎖が消滅する。

と同時に。

「魔理沙ぁ!!」

扉を蹴破り、アリスが怒鳴り込んできた。

「今度と言う今度は絶対に許さないんだからね!!さあ覚悟しなさ……ん?」

いつもなら即座に飛んで来る筈の軽口が来ない。

常の反応が無いことが、アリスの頭を少しだけ冷静にさせた。

「あ、アリス……」

アリスは魔理沙を見るなり固まった。

胸中渦巻く怒りの念が、音を立てて消えていく。

「な…」

魔理沙が、泣いている。

瞳を潤ませて、頬を朱に染めて。

「アリスぅ~!うわぁぁぁぁぁぁ」

大粒の涙を零し泣きじゃくりながら抱きついてくる魔理沙に、アリスは無抵抗のまま押し倒されてしまった……。




本の世界から戻って来た後は、いつも通りの喧嘩が始まった。

「つ、つまりお前は、私を殴る為だけにあそこまで来たって言うのかぁ!?」

「ええそうよ!いっぺん引っ叩かなきゃ気がすまないわ!このド田舎泥棒猫!!」

「何だと!?このネクラ都会被れ!!あの時ちょっとでもお前を……」

「何よ!?」

「……あー!くそ、何でもない!馬鹿アリス!」

「馬鹿って言った方が馬鹿なのよ!馬鹿魔理沙!」

売り言葉に買い言葉。

いつも通りの口喧嘩。

だが今回は明らかに魔理沙に非がある。

「大体、人のものを勝手に盗むからあんな目に遭うんじゃない。あんな風に泣き出しちゃってさ!「あぁぁん、ありすぅ~」とか言っちゃって」

「お、お前なぁっ!!」

自分が泣いていたことを指摘され、言葉に詰まる魔理沙。

顔を真っ赤にして怒る魔理沙を見て、アリスはニヤリと笑う。

少しは気分が晴れると言うものだ。

「おーよちよち~。こわかったでしゅねー」

「こ、このっ!」

「フンだ。少しは反省したらどうなのよ?私が行かなきゃ貴女はずっとあそこに居るか、死んでるところよ!?」

「だ、誰がお前なんかに助けて欲しいって……」

「へぇ?あーそう。そう言うこと言うんだ……」

アリスの表情がいつにも増して険悪になる。

魔理沙はしまったと思った。

これ以上激情に任せて何かを言えば、アリスから絶交を言い渡されるかも知れない。

元々それほど付き合いが無いので絶交も何も無いのだが、今回の一件で、魔理沙はそれがとても嫌なことだと思った。

何故かは解らないが、それは絶対に嫌なことだと思う。

それに、考えて見れば、確かに自分が悪いのだ。

加えて、目的は別にしても、アリスが自分を助けてくれたのは事実なのだ。

「…………悪かった」

「ん?」

「ご、ごめん…なさい……私が、悪かった。それと、助けてくれて、ありがと……」

「……!」

魔理沙が正直に頭を下げたので、アリスは驚いた。

そして、顔を赤らめる魔理沙を、出会ってからはじめて可愛いと思った。

「わ、解ればいいのよ……」

「うん…」

(ああもう、調子狂うなぁ)

後頭部を掻きながら、アリスは努めて明るく魔理沙に話しかけた。

「まぁ、その。勝手に持っていかないんだったら、貸してあげなくも無いんだから。これからは一言言いなさいよ?」

「うん……ゴメン。ありがとうな、アリス」

「う……」

「……」

沈黙。

(私ってば何言っちゃってるのよ!?あんなこと言って、甘過ぎじゃない?)

(お、思ったよりこいつ、優しいな。ちょっと、いや凄く嬉しいかも……)

(わ、話題を変えないと……)

「と、ところで!」

「な、何だ!?」

互いに頬を赤くして、どもりながら言葉を交わす。

「この本なんだけど…」

「ん?あ、ああ。どうかしたのか?」

「貴女、タイトル声に出して読んだでしょ」

「…ああ」

「やっぱし。いい?こういう魔道書の類はね……」




その後はアリスによる魔法の講釈が続き、二人は仲が良いやら悪いやら、良く解らない状態でその日を過ごした。

「ありがとうなー、アリス。私の知力が15上がった!って感じだぜ」

「どういたしまして」

魔理沙はとても嬉しそうに微笑んだ。

その笑顔をにつられて、アリスも微笑んだ。

「なあアリス」

「なぁに?」

「この本ってさ、娯楽の為に作られたんだよな?」

「そうよ?娯楽にしては危ない気もするけど」

「本の最後のとこなんだが……」

「どれ?」

魔理沙が本を開く。

本の最後のページだ。

本の世界をクリアしたので、今は全ページ普通に読めるようになっている。

そこには古代魔法語でこの本の解説や仕様書らしきものが記されていた。

「多分、どんな感じの娯楽なのか、って書いてあると思うんだが。パッと見難しくてな」

「読むのが面倒だからじゃないの?」

アリスがじと目で睨むと、魔理沙は下をぺロッと出す。

「もう…!えーと、何々……」

アリスは魔理沙から本を取り上げて、そこに書かれている内容にざっと目を通した。

そして。

「……。え?」

「どうした?」

本を読んでいたアリスの動きが固まる。

そして、顔が一気に真っ赤に染まった。

「ええええええ!?」

「な、何だってんだ!?」

アリスの異変に、面白いことになりそうだと感じた魔理沙はすぐさま本を取り上げた。

「あっ!?」

「へへー、私にも読ませろよ」

「だ、だめ!だめったらだめぇ!!」

嫌がるアリスから逃げ回り、覚えたての古代魔法語で片言ながら翻訳していく。

「うーんと……?」



【愛し合う恋人達の為の冒険本シリーズ】
あなたの恋人は格好良かったですか

あなたたちの恋人度

情熱的過ぎる!好き好き大好き愛してる!!

本製品は愛し合う男女(それ以外の組み合わせも当然あり!)の、お互いを思いあう心を確かめ合うための手助けをする物であり、うんたらかんたら



「はうあー!?」

素っ頓狂な悲鳴を上げて本を放り出し、耳まで真っ赤に染めて魔理沙はアリスを見た。

同じく真っ赤な顔をしたアリスと、視線が交差する。

「――――っ!」

「~~~~っ!」

互いに弾かれたように視線を逸らす。

そして訪れる沈黙。



互いに微妙な雰囲気に突入し、いたたまれない気持ちになったので、今日はこれで別れる事にした。

「か、帰るわ…」

「え、ええ。き、気を付けてね?」

ギクシャクとした動きで、アリスから借りた箒にまたがる魔理沙。

同じくぎこちない笑みを浮かべて、手を振るアリス。

「ほ、箒…返しなさいよね?」

「お、おう、もちろんよ」

「じゃ、じゃあね」

「うん、またね」

言葉遣いが女の子のそれになってしまっている魔理沙と、それに気付く余裕の無いアリス。

外は既に夜の帳が落ち、満天の星の海と美しい満月が幻想郷を優しく照らす。

魔理沙がふらふらと飛んで行き、見えなくなるまで、アリスは手を振り続けていた。

彼女の心は今、魔理沙のことで一杯だった。

(何、あの文章に踊らされちゃってるのよ!しっかりしなさいアリス!あれはただの遊びみたいなもの!私はあいつのことなんか何とも思って無いんだからね!!)

何度も頭を振り、アリスは自分に言い聞かせた。

「そうよ、私は魔理沙のことなんて何とも思って無いんだから!な、何が恋人よ!?だいたい私達友達でもない……て違う!それだとなりたいとか思っている風に聞こえるじゃない!?だからそういうことじゃなくて……!あーもう、何なのよ私!!」

それから一時間ほど一人地団駄を踏み、頭を振ってアリスは文句を言い続けた。



「わ、私と、ア、アリスが……」

一方の魔理沙も、アリス同様に混乱状態であった。

自宅周辺をふらふらと回り続け、ぶつぶつと「違う違う!そんなんじゃないぜ!あいつとは別に何にも……」、「ああイヤ、友達、かなぁ……うん、そうだよな!トモダチトモダチ」、「待て、私とアイツは仲が悪かった筈だ?アレ?でも嫌いじゃないよなぁ?」等と言いながら一時間ほど過ごした。




お互いに一時間ほど掛けてようやく落ち着いた頃に、不意に眠気が襲ってくる。

ほぼ同じタイミングで、二人はそれぞれのベッドへ潜り込んだ。

「「……でも、そんなにイヤじゃない、かな……?」」

それぞれの寝床の中で、今日一日を振り返って二人の魔法使いは呟いた。

「「と、とにかく……友達ぐらいにはなってもいいかなぁ……」」

頬を染めながら瞼を閉じる。

「「友達よ、友達……うん」」

二人の心の中に浮かぶ、相手の笑顔。

トクンと高鳴る鼓動が、少し快い。

「明日、お礼を持っていこう。あいつ、何持ってけば喜ぶかなぁ……」

「ちょっとだけ優しくしてあげようかな……うん、そうしよう」

呟く内に、心地よい眠気が二人を柔らかく包み込み、程無く二人の少女は夢の世界へと入って行く。

仮想世界の中とは言え、多くの冒険をした二人はその夜、ぐっすりと眠った。

その寝顔はとても嬉しそうに緩んでいた。

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